アンジェラ・ゲオルギューの歌う、「マダム・バタフライ」を聴きました。2008年の録音です。アントニオ・パッパーノ指揮 、ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団。ソプラノ、アンジェラ・ゲオルギュー、他。
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プッチーニの「マダム・バタフライ」はとても不思議な音楽です。
前奏曲から始まって、曲の中で、ところどころ感じる違和感・・・。綺麗な音楽・・・なんですけども・・・初めて聴いたときは、変な違和感がありました。プッチーニの思い描いていた日本のイメージが何だか妙だと思えました。
そういう意味では、「バタフライ」を初めて聴いたとき、これはついていけない・・・って何度も思ったものです。全然名曲じゃないって・・・。
なぜなら、私達は日本人ですから、外国人の描く、「日本」ってのに抵抗があるんですね。こんなの日本じゃないっていう。日本に対して固定概念のない、日本人以外が聴けば、もっとすんなり理解もできるんでしょうけど・・・。
このCDに同封された、ブックレットの裏に、ゲオルギューが和服を着て写っているんですが、これがまた、似合ってないんですね。アメリカとかヨーロッパの女性は腰が大きい人が多いでしょう。ラ・フランス体型とでもいうのですか・・・和服そのものの、着付けの技術も良くないんでしょうけど、やはり和服は日本の女性のように、体の重心が上半身にないと、似合わないんじゃないかな。下半身に重心があって、大股で「つかつか」と歩く白人女性には、和服を着て、小股で「ちょこちょこ」と歩く日本女性の感じは出しづらい、と思います。
指揮者の朝比奈隆が、おもしろいことをいっています。彼がドイツにオペラを振りに行ったときの話です。
「日本人が行くと、初めは≪蝶々婦人≫に決まっています。日本人の振る≪蝶々婦人≫がいいという。≪蝶々婦人≫はイタリア音楽なのにね。」
結局、結論だけいってしまえば、「マダム・バタフライ」はイタリア音楽だということなんです。
だから、イタリア音楽だって思ってからは、僕もすんなりこの音楽を受け入れられるようになりました。するとこれは中々綺麗な音楽だなあ・・・となる。僕は聴いたことがないけど、イギリスのアーサー・サリヴァンの作品に「ミカド」という作品があるらしいです。これも日本人を主役にしているわけですけど、知名度は「バタフライ」の比じゃないですよね。
ただ、それでも、この作品が不思議な印象を感じさせるのは、トータルで見ると蝶々さんのキャラクターは良く書けていて、一途な日本女性を感じさせるのにもかかわらず、時々これは日本人じゃないな・・・という印象が混じってきたりするからでしょう。
第一幕で蝶々さんとその親類が恋人のピンカートンと友人のシャープレスにお辞儀をする場面があります。蝶々さんはいいます。
「atteti,orsu,(気をつけて、さあ)uno,due,tre e tutti giu.(一、二、三、みんなおじぎするのよ)」
このくだりなんか、その歌わせ方から、声だけ聴いていると、日本人にはないコケティッシュさでして、僕なんかマリリン・モンローを思い出してしまいます。主人公の国籍はどこ?
しかし、時間が経ち、この音楽に慣れてくると、この妙な「異文化の混じり具合」がなんともいえぬ風変わりな魅力になってくるのが不思議です。今回このパッパーノの指揮を聴いていると、僕は、なんというか・・・やたらと懐かしい気持ちになって仕方なかったです。
第一幕で日本的なものと、イタリア的なものが交じり合うとき、僕は心の中に、和洋折衷の、喩えると、大正モダニズムというべき印象が自然と湧き出してきてることに気付きました。初めはその感動の質が一体何なのかさっぱり分からず、ぽかん、としてました。そして、その美しさは、落ち着いた、ため息がでるような、独特の美なのです。聴きながら・・・「随分と幸せな気持ちにさせてくれるなあ・・・。」と、ぼんやり思うばかりでした。
・・・「なんて懐かしい思いがするんだろう・・・!」と何度も感じました。とても美しい音楽ですが、現代にはもう失われた美しさです。和洋折衷とか異文化の交じり合いとか・・・一瞬、口に出してみると、やや幼稚な感じもしますが・・・それも肯定的に描かれると、不思議で華麗な、独自の美しさを醸し出していきます。とにかく、これは本物なんだな・・・と思えるのです。
パッパーノの演奏する管弦楽は、淡い音彩で、水彩画のようでした。ゲオルギューは特に蝶々さんにこだわったような歌い方もせず、ナチュラルです。レナータ・スコットがバルビローリ卿の指揮で、蝶々さんを滑舌良く歌ってますけど、このスコットの方が日本人らしいですかね。
でもその分、パッパーノの指揮とあいまって、ゲオルギューには透明な、色彩的な美しさがありました。中々の味わいだと思います。
結構なお手前であります。・・・とても幸福なひと時を味あわせてもらえたので、満足です。
