アルヒーフのオール・バロック・ボックス。CD50枚組。
初期バロック音楽の作曲家、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)からバロック音楽の頂点にして、終着点である、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)とジョージ・フリデリック・ヘンデル(1685-1757)まで、およそ2百年間分のバロック音楽の録音を集めた全集です。
この全集は、古楽器(ピリオド楽器)の演奏ばかり集めていて、聴き心地の良いものになっています。とはいっても、僕はまだ、余りたくさんは聴いてませんが・・・。
最近、僕はクラシックCDのボックスばかり買い集めるのに夢中で、中々その録音を聴くのが追いつきません。今回もそうで、ちょっと気長に聴いていくことに趣旨を変更しました。・・・まあ・・・どうでもいい話ですが・・・。
ウィーン楽派(古典派のこと、つまり、ハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンが中心になっている楽派)以後の音楽は、音楽を低音部と高音部とに分けた場合、高音部つまり「旋律」が音楽全体を引っ張っていきます。これは今日、およそ我々のほとんどが聴く音楽の主流になっている創作方法です。
それに比べると、古典派の一つ前の時代の音楽である、バロック音楽は音楽の重心が低音部におかれ、曲全体を支えるのです。そしてこの低音部を「通奏低音」といいます。今日ではジャズなどがこれに近いです。
バロック音楽は我々にもなじみ深いものですが、その音楽をやや異質に感じる瞬間があるのは、こうした音楽創作の概念の差からだと思います。
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僕も元々バロック音楽はそんなに好きではありませんでした。バロック音楽は低音部さえあれば、割とメロディーは好きなように作れるので、時代のせいもあったのでしょう、その凝った装飾趣味のメロディーで飾られた曲の感触がくどくて嫌いでした。
しかし最近は楽譜の研究も進んで、バロック音楽がモダーン楽器ではなく、その時代に通用していたピリオド楽器で演奏されるようになりました。以前書きましたが、楽譜に忠実、というザッハリッヒ(いわゆる「新即物主義」のこと)の行方は、とうとう、作曲された同じ時代の楽器で演奏しなければならない、というところまできてしまったのです。
しかし、こういう考え方は未来志向の、古典派音楽以降の作品には必ずしもなじみませんが、バロック音楽になるとこれは非常に良い結果をもたらしたといえます。
曲の響きが時代に即したものとなり、大変魅力的になったからです。これなら僕も大人しく聴いてられます。
それでもやはり僕などはバロック期でも初期の作曲家のものを好みます。クラウディオ・モンテヴェルディなどを聴いていると、その音楽には、まだルネサンス期の面影があり、パレストリーナのところでも書いたように、ヨーロッパの悠久の香りがあるからです。
「聖母マリアのためのヴェスプロ」やオペラ「オルフェオ」などとても素晴らしいです。
バロックといえばあとコンチェルトが有名でしょうか。ヴィヴァルディ、コレッリなどものやバッハの「ブランデンブルグ・コンチェルト」なども入っています。
他はあまりまだ聴いてないので、少し気になったものだけ書いておきます。特に大曲だけに絞ります。
このボックスに入っている大曲は、前述のモンテヴェルディ以外だと、やはり、バッハ、ヘンデルのものが目に付きます。マタイ受難曲、ミサ曲・ロ短調、そしてメサイア。これらは全てバロック音楽を超えて、クラシック音楽を代表する名曲ばかりです。
「マタイ受難曲」と「ミサ曲・ロ短調」は昔から定評ある、カール・リヒターの演奏と簡単な比較をしています。また、リヒターのものはこのボックスには入っていませんので、悪しからず。
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<ミニ批評>
「マタイ受難曲」はバッハの宗教音楽の傑作。これは一人バッハのみならず、クラシック音楽やその他の音楽と比べても、もっとも感動的な音楽の一つとされます。本来、3時間近い長い音楽ですが、エヴァンゲリストを中心にしたキリストの受難劇です。第一曲目など特に感動的で、ゴルゴダの丘に十字架を運ぶ、イエスの苦悩が描かれます。全曲を通すと、無神論者もなぜか敬虔な気持ちにさせられるような、大変な感動があります。バッハの四大宗教音楽の一つで、他に「ヨハネ受難曲」、「ミサ曲・ロ短調」、「クリスマス・オラトリオ」があります。
さて、まずはバッハの「マタイ受難曲」ですが、ここにはポール・マクリーシュの演奏で入っています。これは変わった演奏で、合唱パートをソリストに歌わせたもので、曲の贅肉を徹底的にそぎ落としています。こうやって、本来の曲とは違う印象で聴くと、この少人数の受難曲の演奏は確かに新鮮で、すがすがしいものです。ただ、やはりドラマは弱いようで、全体を通すと、物足りない印象が残ります。少人数でやろうとするところに、古楽器演奏者の趣味が良く現れているとは思いますが・・・。しかし、結局、感動は浅いようです。格別なものとは思いませんでした。改めてリヒター盤の素晴らしさを思います。
「ミサ曲・ロ短調」。熾烈な「キリエ」で始まる、バッハのこのミサ曲は、ミサ曲の中の最高傑作の一つです。よくベートーヴェンの「荘厳ミサ」と比べられますが、あちらはまるで交響曲のような響きで、力強いですが、こちらはもっと柔軟でソフトです。しかし規模は大きく、2時間近い大曲です。
「ミサ曲・ロ短調」はジョン・エリオット・ガーディナーのものです。これは美しい演奏で、麗しいと思います。カール・リヒターなどの演奏に比べると、力強さは足りないと思いますが、しなやかでソフトなフォルム、音のアンティークな味わいと透明度が増していて、改めてリヒターの演奏を聴くと、合唱のもやつきが気になって、うっとうしくさえ感じます。ガーディナーの演奏は、リズムもきりっとして、躍動感があります。感情移入も行き過ぎず足りなすぎずで、ピリオド楽器での模範的演奏だと思いました。
ヘンデルの「メサイア」はオラトリオで、イエスの生涯を描く、これも宗教音楽です。バッハのように内向きな音楽ではなく、緩やかな開放性を持った音楽です。中でもハレルヤ・コーラスが有名で、この部分だけ、聴いたことがある人も多いかもしれません。演奏時間は2時間半ほどかかります。
ヘンデルの「メサイア」はトレヴァー・ピノックの演奏。僕はメサイアをほとんど聴いてきていないので、あまりたいした感想はかけませんが、印象だけ書いておきます。個人的にはこれは充分美しかったです。バッハと違い、平明で開放的な音楽の中に、確かにバロック音楽特有の陰りと、伸びやかな感動は表現されていると思いました。曲のせいもあるんでしょうが、上述のガーディナーやマクリーシュほど神経質な感じもしません。ただこの2人もメサイアを録音しているので、一度聴いてみたい気はします。とにかく、バッハの曲より雅さが減るのは当然なんでしょうが、かわりに、なめらかなメロディーの感触を楽しみました。・・・ただ・・・バスのジョン・トムリンソンの声は、曲の全体の印象から、少し浮いてるんじゃないかな・・・?と思います。それだけは気になりました。
