<交響曲第8番>
ブルックナーが本格的に交響曲の作曲をはじめたのは40歳を過ぎてからだった。しかしウィーンの音楽会はブラームスの音楽を代表とするハンスリックらによって牛耳られており、ワーグナーを信奉するブルックナーは必然的に退けられる事が多かった。だがブルックナーという人物はひどく傷付きやすいにもかかわらず、どんなに踏まれてもめげない精神を持っていた。
晩年の傑作である交響曲第8番と未完ながら、彼岸の音楽となった第9番はブルックナーが本当の意味で巨匠と呼ばれるべき人物となったことを表している作品である。しかし、この交響曲8番の第2稿が完成したのは何と彼が66歳の時であった。
そこまでの長い道程はまさに茨に道だったが、この交響曲8番の成立も苦しい彼の創作活動から生まれたものだった。
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交響曲第7番の成功によってブルックナーの作曲家としての地位は大幅に改善されたといって良かった。しかしながら彼にはどうしても知性的な弱点があり、彼の交響曲第8番の第1稿が完成したときその弱点は恩人の一人である、ヘルマン・レーヴィによって指摘されることになる。
ワーグナーのパルシファルの初演者であるレーヴィはブルックナーに対しても理解のある人物だった。だが彼はブルックナーから送られた第8のスコアに目を通したが自分が理解できない事を作曲者本人に告白せざるを得なかったのである。
第7の成功で自信もあったブルックナーだが今度は味方側の無理解にあって、一時は自殺を考えるほど落ち込み、湯治さえ行った。
しかしブルックナーは回復すると畢竟の大作となるこの交響曲の改定を行い、遂にそれを完成させたのである。
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この第8交響曲はブルックナーの書いた最も巨大な交響曲で、雄渾壮大な展開で聴衆を圧倒する。ブルックナーは明らかに改訂の段階でこの曲には全体を通してのドラマが必要だと考えたようで、第1楽章はクライマックスにあたる部分を大幅に改訂した。確かに第1稿はあまりにドラマがなさ過ぎ、意味不明である。
しかし改訂された第2稿は交響曲の傑作の名にふさわしい内容となった。特に第3楽章のアダージョは素晴らしいと思う。
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セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団。ブルックナー交響曲第8番。
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チェリビダッケという指揮者は録音嫌いで有名であり、指揮者自身生前は自分の録音の発売を許可しなかった。
だからまだチェリビダッケの公式なCDが出ていない僕の学生時代、チェリビダッケのCDはMETEORやAUDIOR(両会社共に既に解散)の発売した海賊版で楽しんでいた。
とにかく徹底的に練られた弦の音色に恍惚としたものだった。
それらの音源は現今正規に出ている音源よりも豊富で、色んな種類のものを詳しい友人と聴いていた。そしてそんな音源の中でも最も美しい音源がこの俗にリスボン盤と呼ばれる音源だった。
これは素晴らしい録音で、この曲のファーストチョイスにしても良いだろう。
僕もチェリビダッケの録音を全て聴いたわけではないが、チェリビダッケとしては遅すぎず、速すぎずといったちょうど良いテンポで造形の立派な音響の世界を作り出す。
どうしてもEMI盤はテンポが遅すぎるし、音質もぱさついて拍子抜けである。
それに比べるとこの録音は音に粘着力があり、ライヴの生々しさも伝えており素晴らしい。第3楽章のオーケストラの感じ方も素晴らしく、高音のパッセージでは脂ぎるほどの美感を示している。
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実際、このブルックナーの第8番のアダージョ自体、 緩徐楽章の大傑作というべきだ。
それは水晶の森を思わせる。
信じられないような研ぎ澄まれた美感は人間性の完全な浄化からしか生まれないだろう。
聴いたことのない人はステレオで一度ゆっくりとこの曲を大きめの音で流してみるといい。
そこに広がるのはまるで水晶のような透明感、この世のものとは思えないような澄み切った空気。そしてまじりっけのない水色を湛えたまま、どこまでも見通せるような水面・・・。
冒頭から美しい弦とハープの音色がこの世の物とは思えない絶美の音楽を紡ぎ出す。
透明な、青白い感情につつまれながら我々は深い森を探索すよう様な錯覚を覚える。
・・・そして優しいチェロが導く第2主題はブルックナーの信頼の現れであり、八本ものホルンが奏でる信じられないような安心感は遠くに聳える山々の姿だろうか?
そして神秘とも思える、人間業とも思えないアダージョが終わると、この世を超俯瞰で見通すような壮大で崇高なフィナーレが始まるのである。
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この録音が手に入れずらい海賊版なのが残念だ。
正規版で発売するべきだと思う。
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ギュンター・ヴァント指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。ブルックナー交響曲第八番。
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晩年のヴァントによるブルックナーの交響曲8番の録音で有名なのは、93年の北ドイツ放響盤、2000年のミュンヘン・フィル盤とそしてこの2001年のベルリン・フィル盤だろう。
個人的に最も好きな演奏は北ドイツ放響との録音である。新鮮で、極めてナイーヴな表現が素晴らしく、異常に細かい弦の刻みや気持ちのこもった表現はこれが最高だ。
しかし音の輪郭や演奏の威力のことを考えると、やはりベルリン・フィルとの演奏が頭一つ抜きん出ている。
正直僕はどう優劣をつけて良いか分からない。結局、どちらもブルックナー演奏を極めた表現だということだろう。





