アドルフ・ヒトラーによって「我が闘争」の中で描かれている「国家社会主義ドイツ労働者党」の理念、所謂「ナチス」の理念には恐るべき物がある。
それは多分に理念そのものの恐ろしさと共に、アドルフ・ヒトラーの天才性に支えられた、彼の率直な意思と意見からくる半英雄性と激しい思い込みから来る半狂人性・・・。・・・言い換えれば、それはまさにアドルフ・ヒトラーという人物そのものから来る恐ろしさ「そのもの」である。
本来「天才」という言葉は肯定的に使われるべきだろうし、そうあってほしいものだが、現実はそうではない。
現代では「トンデモ本」ぐらいでしか扱われない国際的ユダヤ人の暗躍とフリーメイソンの謀略という構図を利用しながら、彼が国際的ユダヤ人の手によって後に訪れるであろう世界を描く時、それは全く的外れでなく、彼の描く「後の」国際的になった世界観は、かなり正確だと思わせる。
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ヒトラーが、真実を鋭く見つめながらも、自らの人生に対する復讐心と、激しい闘争心、そして野望によってドイツ人を狂気へと引っ張っていけたのは、そこにいくらかの正しい事実が含まれていたからだ。
そしてその正しい事実の中に、彼は恐るべき呪術的と言える巧妙なやり方で、自分の貪欲な欲望を散りばめていったのである。
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この著書の中でヒトラーは、ドイツの没落を担う民族として「ユダヤ」という民族を名指しで槍玉にあげている。
考えようによっては、ヒトラーは第一次世界大戦以来、辛酸をなめてきたドイツ人の「うっぷん」を他民族のせいにする事によって、政治への不満を他へ逸らそうとしたのかもしれない。
しかし、ここで我々はヒトラーの性格を考えた時、必ずしもそう簡単に政治上の策略だけで、彼がこうも激しく「ユダヤ人」への不満を口にするか・・・?という疑問に襲われる。
SF作家のH.G.ウェルズは自著の「世界史概観」(長谷部文雄、安部知二、訳。岩波新書。)の中で、「ヒトラーは自分の目的を真剣に隠蔽したことはなかった。彼の著書「我が闘争」を読むか、ドイツ国内で彼の演説を聞くかしたものなら誰でも彼の目的をしりえたはずである。」、と語っている。
確かにヒトラーの性格には不思議なところがあり、本来なら秘密裏に画策すべきだろう事柄もかれは自著の中で割合に率直に語っている。
ヒトラーは自分の考えに関してはかなり正直なところがあり、それなりに秘密にしてある部分があるにしろ、彼はその自身の考えに忠実に正直に行動していたところがある。
おそらくそのあたりが彼のカリスマ性となって現れていたのだろう。
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こうしてみてくると、ヒトラーは狂気に満ちていたかもしれないが、実際の率直で明快な性格のおかげでかなり得をしていたに違いない。
ユダヤ人の問題についても、全くすべてが本当でないにしても、彼自身がその民族的な問題についてかなりの程度まで信じていたと言う印象を持たせる事に成功しているし、実際信じていたのだろう・・・という印象を僕は持つ。
そのため僕はこの本を読むと、彼の起したこの世界戦争は、枢軸と呼ばれる国粋国家と国際化を計るユダヤ人との世界の実際的支配権をめぐる、究極の戦争だった、という印象を抱く。
「1933年一月三十日に、アードルフ・ヒトラーは権力を掌握した。その不吉な前兆はすでに何年も前からあらわれていたが、ドイツ国内でも、他の国々でもその危険を察知するものは少なかった。・・・(中略)・・・ヒトラーが気違いじみた思想を押し出したとき、それはたてまえではなく本音そのもので、言うことすべてを実行に移す意図をもっていたと正しく洞察したものはほとんどいなかった。」(H-H・シェンツラー、喜多尾道冬、訳、「フルトヴェングラーの生涯」から。)
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そして、ユダヤ流の国際社会的な世界観に対抗して、彼の求める国粋的国家像を作るべく、この「我が闘争」には多くの政治的理論が盛り込まれることになった。
この本の中には彼独自の歴史認識から、ドイツ人のあるべき姿、そして、そのあるべき姿を実現するための各種理論が明晰に語られている。
その政治的理論は民族的な優越性に執着しながらも、緻密で、説得力があり、ナチス党の組織的理論、あるいは、民主主義政治の弱点、また、世俗への分析・・・等どれも確かな確信と鋭い指摘に満ちている。
民衆へのマインドコントロールの方法などもヒトラーは本書の中でかなり率直に述べているが、不思議と嫌味も無い。
だが、そうした広凡な理論も結局、ヒトラーのユダヤ人に対する激しい嫌悪があってこそ成立っているのは間違いないだろう。
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ヒトラーはそして第一次世界大戦に負け、大量の借金にあえぎ苦しむドイツ人を、ユダヤ人達が自らの言いなりにすべき存在にしようとして、新聞などのマスコミ、あるいはマルクスの作り出した「マルキシズム」、またかつては石工の秘密結社であった「フリーメイソン」等を自らのために利用し、ドイツ社会をかく乱し、活力を奪っているとした。
特に当時まだ勢力を誇っていた、赤色に表される政治思想、または共産主義等と言われる・・・「マルキシズム」は、国内を資本家と労働者という完全に対立する分子に分けてしまうため、その二大勢力が争えば国家はどうしても活力を奪われてしまう。
だからヒトラーは「マルキシズム」や共産国を激しく嫌い、これもユダヤ流の計画された思想から生まれた、各国家の体力を奪う作戦の一部だとした。
そして、ユダヤ人が秘密結社やマルキシズム、また国際金融市場などで世界へ激しく揺さぶりをかける中、アドルフ・ヒトラーは彼等の国家破壊戦略に対抗するためには、ドイツ国民が団結し、国家からユダヤ人を追い出すと共に、国際的ユダヤ人に対抗しなければならないと明言する。
それしかドイツ人が誇りを取り戻せる方法は無いのだと言って。
そして、それこそがまさにドイツ流のファシズム、国家社会主義ドイツ労働者党・・・ナチスの正体であった。
ここにヒトラーはアーリア人の民族的特長から、アーリア人こそが世界的な優勢人種であると言い、民族対立の構図を鮮明化していったのである。
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1939年にドイツがポーランドに侵攻して以来、ヒトラーはこの「我が闘争」に描かれた内容に沿ってかなりの程度まで正確に行動していった。
あらゆる欲望を飲み込みながら、彼の考える世界浄化のため、ドイツはその精緻で強力な力を発揮し、イタリアと我が日本もそれに協力した。
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1941年、ドイツとイタリアはイギリスを除く西ヨーロッパ全土を手中におさめると、ヒトラーはかねてからの主張通り、共産主義への憎悪をむき出しにして、不可侵条約を結んでいた、ソヴィエトへ何の通達も無く大軍を送り、独ソ戦が開始された。
同年、ヒトラーは首都モスクワに迫り、その勝利を確信すると、自身も戦いに参加すべく準備していた日本も、ドイツの勝利に負けじとその年の12月10日、アメリカの真珠湾を攻撃した。
ここにヒトラーの引いた争いのトリガーは遂に世界中に飛び火し、ヨーロッパと太平洋でほとんど世界中の国々が宣戦布告し、人類の有史以来、最も醜い殺し合いが始められたのである。