セルバンテスは当時流行していた数多くの「騎士物語」にうんざりしており、これを打破しようと、あるいは小馬鹿にしてやろうという考えで持って、この小説を書き始めたらしい。
16世紀のイスパニアには、大衆的な騎士道物語が氾濫しており、これは英雄崇拝的で現実逃避的な内容だった。だが、現実的で写実的描写を好むセルバンテスにはこれは許しがたい事で、「荒唐無稽な騎士物語を打破すべし」という心意気で持って「ドン・キホーテ」に取り掛かる。
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そして、19世紀のロシアの作家、ツルゲーネフ等の作家達がこの小説を再発見した。
後先構わず自分の思いのまま行動する「ドン・キホーテ」の中に、結果がどうあれ、常に行為者として行為するドン・キホーテに人間の本質を見たのである。
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セルバンテス作「ドン・キホーテ」。永田寛定、高橋正武訳。岩波文庫。
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イスパニアの詩人、ミゲール・デ・セルバンテスが書いた「ドン・キホーテ」の正編が出たのは、今から四百年以上も前の1605年である。捕虜になったり、投獄されたり、あるいは左手を失ったり・・・数々の人生経験の後、セルバンテスはこの小説を完成させた。
そこには滑稽な人間の本質に対する愛情がある。
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この小説の内容は単純なもので、難しいところは無い。
発表された当時は大変な人気で、版を重ねたそうだ。
主人公のアロンソ・キハーノは騎士道物語を読みすぎて、空想が膨らんでしまい自分を本物の騎士と思いこんでしまう。
彼も当時流行の騎士物語にまんまとやられてしまったと言う訳で・・・。
そして、自らを「ドン・キホーテ・ラ・マンチャ」と名乗り、ヒョロヒョロでガリガリの愛馬ロシナンテに跨って冒険の旅に出る。
田舎者のサンチョ・パンサが彼のお供だ。
気のふれてしまったドン・キホーテは、各地で自らの思い込みのまま、珍事件を繰り返していく。
風車を巨人だと思い、突撃してみたり、宿屋を城だと勘違いしてみたり・・・行く先々で騒動を惹き起こすドン・キホーテ。
珍妙な事件が確かな筆致で綴られたこの小説は、もともと騎士道物語を批判しつつも、純粋に人々を楽しませようとして書かれたものだった。
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長い年月を経て、「ドン・キホーテ」は世界文学一級の評価を得たが、それはまるで狂気のキハーノが臨終の際、正気に戻ったようなものである。
確かに今日でもこの作品の価値は色あせない。そこにあるのは人間が本来持つ、「だめ」な事に対する愛情と、人生に対する穏やかな肯定である。
それはまさに苦労を重ねたセルバンテスの人間性を感じさせる世界文学の古典なのである。