ニーチェ、「ツァラトストラはかく語りき」。竹山道雄訳、新潮文庫。
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古代ペルシアの宗教家、ゾロアスターの名を借りて、ニーチェは自らがアンチキリストであことを明確にした歴史的名著。
そして、この著書でもって、余りに掟に厳しいキリスト=神の概念と意識的に対決した。
ゾロアスターをドイツ語読みすると「ツァラトストラ」になる。
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ニーチェの激しいコンプレックスは、余りに人間の完成形だけを求め、それ以外の足りない要素のある人間を排斥してしまうキリスト教のやり方に反抗した。
それは人間から「生」そのものを奪い、人間の人生から「自由」を奪う物だとして・・・。
そして、あの世に救いを求める、あまりに形而上的ありかたから逃れ、新しい人類の概念を求める。それが彼が言う「超人」思想であり、同時に「永劫回帰」の思想である。
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人間は克服されるべきあるもの、だとして、宗教や道徳に縛られず、自己克服をなし完成されてゆく人間をニーチェは「超人」と名付けたのである。
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比喩の多いこの難解な著書の内容を知れば、多くの人が現代人の持つ、無神論的あり方の根本的な部分を押さえていることを知るだろう。
それは意図的に仕掛けられた、ニーチェの哲学なのだと思う。
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ゲーテのファウストの有名な最後の文言、そして一定の悟りをみせるワーグナーのパルシファル。これらの作品は他のキリスト教以外の宗教的概念と同様の成果を見せている。
仏教の般若心経では「色即是空」と言う。
色とは物質的現象一般を指し、この場合、特に人間の持つ、現世利益への執着とみなしても差し支えない。
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しかし、ニーチェはそうした執着への解脱も人間の生への冒涜だとし、激しく抵抗している。
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だが、結局これはまじめに読むと妙な部分がいっぱいある書物でもある。
「超人」等と偉そうな事を言っても、結局それはいずれ、一種の解脱を迎えなければならないのではないか、とも思える。
僕個人の意見としてはやはり、ゲーテやワーグナーの言う意見のほうが説得力があると思う。それに比べれば、ニーチェはまだ経験の足りない、ただの才人にしか思えない。
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確かに現代の宗教や道徳が無駄に権威的になり、自己の保身ばかり考えるようになった様子は余りにひどい。人間を救うはずのこれらのシステムが、結局は戦争の種になり、あるいは私服を肥やす原因になったりしているのは周知の事実だ。
作者が、そうした無駄な足枷から人類を解放しようと言う考えは素晴らしいと思う。
しかしながら、ニーチェ自身は自己の嫉妬心を散々否定しながらも、結局、世俗の宗教とその本質の違いをはっきりさせないまま、ざっくりと宗教に関係することを切り捨ててしまうのは、余りに呪詛の印象を際立たせている。
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多くの人が、この著作の内容を、新しい価値観の出現として評価しているが、個人的にはあまり同調する気にはなれない本だ。
「超人」思想は確かに面白い。そこには幾分本質的な要素もあると思う。
だが、無理から力付くなやり方だけで、人間は本当に自己克服などできるのだろうか・・・?結局、それは気のふれるようなやり方で、個人を無理やり追い込んでいくだけに過ぎないとも僕には思えた。
