今年はショパン生誕200年になります。
多くの催し物があるそうですが、僕にとってみると、そうした催し物はともかく、梅雨時の今日のように雨の降る日になるとショパンの曲を思い出します。
実際、本人はそう言われるのを嫌ったそうですが、ショパンの音楽もどこか水の流れを思い出させるものがあります。
当然、彼の音楽が主にピアノという楽器で作曲されたことが原因の一つではあるでしょう。
ピアノの音ほど水を想像させてくれる音色はありません。
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ピアノの詩人と言われたフレデリック・ショパン(1810-1849)は39歳までしか生きませんでした。
その短い生涯の中で書かれた作品のほとんどがピアノ曲です。
その天才的な感性は曲を聴くほどに感じられます。
多くの人が「何故こんな曲をかけるのだろうか・・・?」と感じるのではないのでしょうか。
ここに紹介する有名な「雨だれ」を含む「前奏曲集」はなんと彼がまだ28歳の時の作品です。
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確かに世の中には天才がいるものです。
そして、今の世の中にも天才はいます。また、現代の音楽家にもいます。
ただショパンなどのクラッシク音楽家の天才というものはそうした現代の天才と比べても全く桁が違うように思われます。
理由はよく分かりませんが、聴けば聴くほどそう思われて仕方ありません。
今の世の中ならいくらでも過去の作品を研究して、それらしいものもできるのでしょう。
しかし、当時も色んな前例があったとはいえ、他者と比べようもないこうした作品を書けるのはどういう人間なのか・・・凡人の我々には見当もつきません。
ショパンの音楽を聴くと、上品さ格調の高さ、それにツボをおさえたの感情の表現・・・そして力付くでない音楽そのものが我々を魅了します。
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この「前奏曲集」は長短24あるコードに一曲ずつ曲を付けていったもので、他に2曲合わせて絶え間なく26曲演奏されていくのが主流です。
40分強かかる曲ですが、変化に富む楽しさと、ショパン特有の品格ある芸術性が聴き手の心を高めてくれます。
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このCDの演奏者のクラウディオ・アラウはチリ生まれのピアニストで、ドイツ系のベートーヴェン等の曲を得意とする大家でした。
彼の演奏はゆっくりと一音ずつ丁寧に弾きわけてゆく大人の演奏で、ショパンの演奏も味わい深く、僕は大好きです。
全体に自然な音楽の流れと慈愛に満ちた演奏が聴かれます。
ショパンの音楽は一見華麗で華やかに見えますが、演奏に必要とされる音は必ずしも明るい音でなく、やや地味な泥臭いと言っても良い様な音です。
アラウはそのあたりの違和感も余りありません。
そしてこの作曲家の曲は、どの曲も中間部にうっとりするような幅のあるものが主流で、物思いにふけるには持って来いでしょう。
自分が物思いに沈んで元気がなさそうに感じても、こうした音楽があればそうした自分を肯定することができます。時にはじっくり一人になり、自分を見つめ直すのも悪くないと感じられるのではないでしょうか。
1973年の録音です。
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有名な「雨だれ」は第15曲めに入っています。その外にも一度聴いたら忘れられないような個性的な曲があり、飽きさせません。
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ただ、アラウはかならずしもショパン弾きとは言えないかとも思います。
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ショパンを弾くことを得意とする人をショパン弾きといいます。
ホロビィッツやルービンシュタイン、最近ではアルゲリッチ等が代表的でしょうか。
しかし、数あるショパン弾きの内、20世紀最大のショパン弾きと言われたのがアルフレッド・コルトー(1877-1962)です。
コルトーはフランス人らしい明るい音を持っていました。
最後にかなり古いですが、その録音を聴いてみたいと思います。
コルトーは1962年に没した、フランスを代表する大ピアニストです。
僕の持っているのは1933年から1934年に残されたもので、かなり古い録音です。
他にもコルトーは「前奏曲集」を1926年、1942年に録音しているそうです。
このCDを聴くとさすがに時代を感じさせます。
今の時代から考えれば、かなり個人の主観的な解釈が行き届いている演奏のように聴こえますが、評論家に言わせればこれでも20世紀の新しい演奏なのだそうです。
19世紀特有の自由さを排し、教養人だったコルトーはそこへ知的な解釈を持ち込んだのだそうです。
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音は当然良くありません。
特にピアノの音の響きは面的な広がりをみせます。演奏家もその音の広がりを意識して演奏するものです。
しかし古いモノラル録音はどうしても音の繊細な部分は捉え切れませんので、ピアノの音がややぶつ切れに聴こえなくもありません。
それでもこうした録音は、コルトーの曲に対する解釈や当時の時代の空気を伝えており、残っているだけでもありがたいといえます。
それでも、こうした古いCDからはなかなか20世紀最大のショパン弾きの良さが完全には伝わらないようです。
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個人的にはコルトーの演奏なら1949年に演奏されたドビュッシーの「前奏曲集、第一巻」に惹かれます。
これも古い録音ですが、ここではコルトーの色彩的といわれたタッチも幾分感じられ、ドビュッシーとコルトーの両フランス人の組み合わせも悪いはずがありません。

