なんか全然見た事ないおじさん(嘘)がギター弾いているし。。
帯は諸星大二郎先生
で
こんな感じなんですよー ということで昨日ミクシーにアップした日記をつけておきます。
ちなみにこの日記は本には入っておりません。
一般書店での発売は12月後半になるとのことです。
是非お買い上げの程宜しくお願い致します。

だれ? ジョニー?歯井戸?


まぁ あとは買ってからということでよろしくお願いします。
もうこの時点で胃がきりきりしてます。
では
昨日書いた古道具屋日記です。
もう 随分前になりますが旧日本軍の軍服を着て骨董市に現れるお爺ちゃんが居たのです。
軍服といっても将校のものではなく兵隊のものでしかも相当に着古した物でした。
頭にはよれよれの軍帽を被りゲートルもしっかりと撒いて都内の骨董市では知られた存在だったのです。
私が骨董市に出始めた頃から見かけていたのですから結構長い間骨董市に通われていたんだと思います。
でも このお爺ちゃん結構扱いづらいところがあってしかも短気。
自分が見ている品を横から他のお客が覗くだけで怒って怒鳴りつけるしそこのお店の人が注意すると怒って帰ってしまいます。
それに結構値切るし(どうも古道具屋はふっかけるものと思っていたらしい)なかなか買ってもらえません。
彼が興味を持つ物は戦時の物が多くてやはり軍隊関係の物を欲しがります。
最初の頃は扱いにくいお爺ちゃんだしちょっと遠巻きにしていたんですがある日蓄音機をお店に置いていたら「悪いんだがちょっと聞かしてくれないか?」と仰るのです。
見てみたら彼の手には何処か他所で買って来た物らしい軍歌のSP盤が見えました。
その辺りの古道具屋なら なんて厚かましいんだ ウチで買ってくれたレコードだというならともかく他所で買って来た物を聞きたいからかけろって?針だって只じゃないんだって言うところでしょう。
でも 前々からこのお爺ちゃんに興味があったのもあって
「いいですよ~」ってかけてあげたんです。
そしたらお爺ちゃん少し嬉しそうに
「悪いな 有り難う」
と言ってレコードを聞いていました。
「お!軍歌ですね!」
と割り込んで来たお客様に
「今 ワシが借りて聞いているんだ!関係がないんだから他所へいけ!!」
と怒鳴りつけつつも熱心に聞いていらっしゃいました。
一通り聞いてから
「有り難う あんた良い人だったんだな これからも時々頼むよ」
とそれから本当にちょくちょく来てくれるようになってレコードをかけてあげたり時々は付き合いで物を買ってくれるようにもなりました。
そうやって2ヶ月もした頃には色々な話をしてくれるようになってそれでこのお爺ちゃんが戦時は近衛師団にいたことやまだ彼の中で戦争が終わっていない事等も理解致しました。
彼は戦後のこの国の有り様とどうしても折り合いをつける事が出来ず靖国陣者に祀られてている多くの上官や同僚達とまだ戦い続けていたのです。
彼の着ている軍服は戦時であることを意味していてその意思表明でもあったのですね。
そうやって何年か経ってある日
「お前だけに特別に見せてやるよ!」
といってアルバムを持って来てくれた事があったのです。
そのアルバムには 当時紅白に毎年出ていた国民的歌手や有名な役者さん達とそのお爺ちゃんが一緒に写っている写真でした。
写真と一緒にその人たちから届いた年賀状や手紙等も貼ってありました。
そうか 近衛師団って言ったら当時のエリート集団だもの そんじょそこらの人間が入れるようなところじゃなかったんだよな と。
このお爺ちゃんだって世が世であれば今頃大臣とかになっていたかもしれないような家系の出かもしれないのです。
「俺が死んだらこれ皆おまえにあげても良いんだ これなら良い値で売れるだろう?」
「いやいやこれは大事な物でしょう?こういうのは人にあげたりしたらダメですよ」
「だって死んだら俺はいらないから好きにすればいいんだ。お前はどうも変なところで融通がきかないな」
だが それから暫くして来なくなり半年程見かけなくなっていたのです。
心配ではあったものの住所さえ知りませんでしたからどうにも出来ずに居ると秋の骨董市の時に首に包帯を巻いて現れました。
喉が癌でやられたとかで手術したんですが声が出なくなってそのリハビリとかでなかなか骨董市まで来れなかったということでした。
筆談と骨振動を声にするマイクみたいな機械を使って久しぶりに来れてほっとしたと言ってくれてちょこちょこと色々買ってくれてその日は割と早く帰りましたがそれからまたいつものように顔を出してくれるようになりました。
声が出なくなって更に短気になって事情を知らないお客様が不用意に話しかけてそのマイクみたいなのでこづかれたりしていましたが基本的には元気そうでした。
それからまたアルバムや手紙や写真等を見せてくれて時々若い頃の話もしてくれるようになりました。
でも4年程前から姿を見かけなくなり風の便りで癌で亡くなった事を知りました。
一度遊びにおいで と誘われたのですが結局そこまでは踏み込めなかったのです。
今でも時々彼の事を思い出します。
結局結婚もせず 家庭も家族も持たず 彼の中で終わる事のなかった戦争の中へ死んで行ったのかそれともいくらかでも私や骨董市の存在がなんらかの助けになったのかそれはもうわかりません。
ですが最後の方はもう軍服姿ではなくアルバムを持った少しよれたお爺ちゃんでした。
それが少しだけ結局彼の招きに甘える事が出来なかった私にとっての救いになっているのです。
合掌