「船弁慶」観世 vs 宝生 (後編) | 能楽師 辰巳満次郎様 ファンブログ

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こちらは、不休で普及に励む宝生流グレート能楽師の辰巳満次郎先生♥に「惚れてまったやないかぁ~!」なファン達が、辰巳満次郎先生♥と能楽の魅力をお伝えしたいな~、と休み休み、熱い思いをぶつけるブログです。

後編は、国立能楽堂の「のうのう能」での辰巳満次郎師の「船弁慶」です。

 

実は辰巳満次郎師の「船弁慶」を拝見するのは昨年の東京大薪能に続いて2回目。しかし、東京大薪能では脇正面席でも舞台の外側、親指サイズ?の満次郎師しか観られなかった上に(薪能なので)前半は短縮版、さらにピンマイクが具合悪くなって(汗のせいだったらしいが)イイところで音声がNGだった等、かなり欲求不満状態だったので完全版を堪能すべし、と能友がチケットを確保してくれたリベンジ舞台でゴザイマス。
この日の小書「後ノ出留ノ伝」も実は3度目の鑑賞、初回は昨年の1月名古屋(衣斐正宜師)、二回目は昨年の10月大阪(宝生和英師)でした。しかしどちらも脇正面からだったので、今回は正面席からこれまたリベンジでゴザイマス。

 

 

この公演のプログラムは、なんと!全22ページカラー印刷の立派なお能鑑賞教科書でした。

 

 

あらすじ、番組とその見方、能の登場人物全員のイラスト(下の写真を参照)、本日のお能を楽しむためのミニ知識、壇ノ浦の合戦の解説、残された伝説、さらに平家家系図、源平の戦いの年表、コレがすごい本日の能の解説絵本(にも見える挿絵付き場面解説)、さらにさらに「船弁慶」クセの歌詞(観世と宝生の謡の違いの実演 の部分)、さらにさらにさらに能舞台と役者の配置のイラストと解説、「船弁慶」と「碇潜」の両方の後シテの装束のイラストと解説、これらがタップリと詰まってます。
なんと素晴らしい!これ印刷する用紙を変えたら、書店で1冊千円ぐらいで売ってても不思議じゃありません!
もう、なんとなんと情熱を持って能楽の普及の為、努力しているのでしょうか!
感動でゴザイマス! 観世喜正師、惚れてまうやないか~♪ってぐらい感動しました~。(惚れませんけどね… f^_^;)

 

 

イメージ 1

 

 

これがその登場人物イラスト! 基本的にこういうイラスト等は「お能」初心者向けと言えますが、今回のテーマ「壇ノ浦」の合戦の解説なんて、地図付きで、時間経過と潮の流れ、源平の両軍の位置の記述も詳細に渡り、史実とお能の関係にも踏み込みしかも分かりやすい内容というのが、泣けて来るぐらい素晴らしい。
こういう資料(プログラム)を主催者(しかも個人の主催)が作るのはどれだけ大変か、目先の数字だけしか見ずに事業仕分けをエラソーにする人にはワカンナイんだろうな~。

 

 

さて本題に戻って、と。
宝生の「船弁慶」は、第一部の解説の後、短い休憩を挟んで始まりました。

 

 

ちょっとその前に…。解説は京大の中村健史氏がなさった(司会は観世喜正師)のですが、ご自身お稽古をなさっているとのこと、袴姿でご登場されました。関西(京都?)弁のやんわりとした口調のお話は真面目でかつ面白く、上方落語でも楽しんでいるよう…。好き嫌いはあるかもしれないけれど、関西弁ってそれ自体に微妙な「間」があって、聞く側に安心感を与える感じがします。いいなぁ~♪

解説の後に、観世と宝生の謡の違いを知る、と言うことで「船弁慶」のクセ部分をそれぞれ(宝生:辰巳孝弥師、観世:観世喜正師)が謡う実演がありました。
中村健史氏はその感想を聞かれて「そうですねぇ、観世の謡はまろやかぁな感じがしますねぇ」とコメント。
う~ん、まろやか、かぁ…。

満次郎師は「宝生の謡はカクカクして聞こえるかもしれません」とおっしゃったらしいですが、ワタシの個人的分析?は、観世の謡は音域が宝生より狭く、トーンが高めだと思います。音域が狭い分音楽的には単調になりがちな所を、微妙な節回しで補っているような気がします。そこがまろやかと言えばまろやかかも…。
だけどワタシは身贔屓だから、宝生の謡の方がずっと好き♪♪♪

 

 

「船弁慶」の前半は、義経と静の別れ。オトナの判断を上奏する弁慶に同意せざるを得ない義経。予め根回ししておいてから静御前に告げに行くトコロなんて、まさに仕事のデキる男、弁慶って感じですね。
ここでいよいよ満次郎師登場♪
おおっ、美しいです♪♪♪ この唐織は東京大薪能や辰巳満次郎師のオフィシャルHPのヘッダ部分の写真の静御前と同じ装束のようですね。
さて、グラマラスな色香♪はあれど気丈な静御前はオンナの直感で弁慶の策略を疑いますが、根回しが済んでいる以上何も出来きず、君の御門出を寿ぎ、烏帽子を着けて舞うことになります。
ここで物着と言って、後見がシテに舞台上で烏帽子を着けるのですが、この後にあのハプニングが起きるとは、誰が予想したでしょうか!

 

 

詳細については満次郎師ご本人のブログにアップされましたが、さていよいよ舞いが始まると言う時、シテが立ってサシ謡を始めた途端に、烏帽子の紐がはらり、と解けてしまったのです!!!
見所で一瞬凍り付くワタシ(と能友、いやもっと大勢の人が凍り付いたと思う…)、でも紐が解けただけでは後見からは見えないので気付かない…。
すると自然に落ちたのか、シテが気付かれないように落としたのか、烏帽子がぱたっと舞台に落ちたのでやっと後見が気付きました。
(あ~ヨカッタ~。でも後見は血の気が引いてました…。)

 

 

その後のリカバリは、後見がさっと烏帽子を拾い、シテは何事もなかったかのように常座にクツロギ、地謡は常のテンポよりも遥かにゆっくり謡い(これが逆に静の悲しい気持ちが伝わる良い効果が♪)、後見は素早く烏帽子をつけなおし、無事にクセから舞い始められました。パチパチパチ!!!!!

 

 

無い方がいいに決まっているけれど、ハプニングを見事に乗り切り、このことによりかえって引き締まった舞台となり、ええもん観せてもらいましたわ~、と思いました。

 

 

さて、宝生の謡本を見ると「後ノ出留ノ伝」の小書の場合、中ノ舞も替わる、と書いてあります。
しかし、今まで二度もこの小書を観ていながら(脇正面から観ていたせい?)全く替わったことに気付かなかったの(トホホ…)ですが、今回初めて気付きました。
つまり、中ノ舞の二段めに常だったら脇正面に向く所を、義経に向かって二度シオリ、三段めは無くなります。そして前半のクライマックス、義経と対面して座し「烏帽子直垂脱ぎ捨てて、涙に咽ぶ御別れ」る静は烏帽子の紐に自ら手をかけて解き、俯いてはらり、と落とします。
この辺、何度観てもぐっと来るのですが、中ノ舞の途中に静が涙する型を入れて舞を短縮することで一層劇的効果が強まっていると、今回初めて気付いた次第…。

 

 

中入りすると、船頭(狂言方)が登場、一行は船出します。
この日の船頭は熱血パワフル♪(明治座は真面目で冷静な感じだった)で、平家の亡霊なんかぶっちぎってしまいそう♪

 

 

そして小書付なので知盛はいきなり登場せずに、揚幕を半分上げたすぐその後ろに床机に腰掛け、「そもそもこれは、恒武天皇九代の後胤、平知盛、幽霊なり」とたっぷり謡い(きゃ~♪カッコイイ~♪)一度幕を下ろしてから再登場します、そしてメチャクチャ省略して、ラストは揚幕に駆け込んでから再び半幕にし、海の底へと沈んでゆく後姿で留…。

 

 

ところで、明治座の記事で書き忘れましたが、観世の知盛はホントに飛びます。飛んで空中で一回転します。それも長刀持って!
宝生は飛びません。その場で廻りながら足を踏み替えるだけ。観世が空中にいる時も、宝生では必ずどちらかの足はしっかり舞台にのっていますが、これをいかにキレ良く迫力を持って飛んでいるかの如く見せるかが、シテの力量♪ですね。
(ホントは「跳」が正しい字と思うけど、型の名称は「飛」を使うのでこっちにしてみました。)

 

 

 

え~、何とも長くなって収拾がつかなくなってしまいましたが、今回たまたま二日続けて同じ曲(片方が半能だったのが残念)を観られて、観世も宝生も基本的には同じだな~、だけどやっぱり違うんだなぁ~(アタリマエだぁ!)とシミジミ思いました。育ってきた環境は異なる兄弟ですもんね~。後は好みカナ~。
が、それより何より、面白そうってお能を観に足を運ぶ人が増えないことにはね~、観客がいてこその舞台ですもんね。(とナマイキ言って、おしまいにいたします。次は「碇潜」か「邯鄲」か…。)