思いもかけず、前後編になってしまった「道成寺」レポ…。
でもさ~、辰巳満次郎様

それでは、後編、シテの登場する「道成寺」レポにまいりたいと存じます。
鐘も無事に上がり、いよいよ「道成寺」の始まりです。
最初に、紀州道成寺のメイン僧(ワキ)とサブ僧(ワキヅレ)二人、寺男(狂言方)二人が登場します。
僧が、道成寺に新しい鐘が来たので鐘供養を始めるけれど仔細あって女人禁制にするからその旨をブロードキャストせよ、と寺男Aに申し付けます。
すると寺男A(山本則俊師)が、あのギョロっとした目と少々コワイお顔で見所に向かって、僧から言われたことを声高々に述べ、能舞台を常座→目付柱→ワキ座→笛座まで摺り足で(見所の人々に周知させるべく)回ります。
この間、見所は静まりかえって、舞台の板と足袋の裏がこすれる音しか聞こえません。
なんでも狂言方では、これで見所が静まりかえらないようではNG、らしいです。
それにしても山本則俊師、コワイお顔がチャーミングで萌え~、でゴザイマス。
さあ、いよいよシテの登場です。(待ってましたっ!と、ココロの中で叫ぶまり子)
自分を律してのキビシイお稽古で少々お痩せになったのか、顎から首にかけての線がいっそうシャープになった高橋憲正師。
装束の肩あたりもなんだか華奢になったような…、ちょっとゾクっとするような印象。
橋掛リを運ぶこの姿を見て、ああこの方の「道成寺」の清姫は【若い寡婦説】の方だな~、と思いました。
この日の面(増?)はかなりの美人で色白でしたが、面をかけなくてもおんなじ顔じゃん、って自分に突っ込んでみました。
装束は、白地に金の鱗の摺箔、黒地に丸紋模様の縫箔を腰巻に着て、金地?(山吹色に見えたけど)の椿の唐織を壷折に。
この椿の唐織は「道成寺」の決まり装束らしいと聞いたことがありますが、和英家元の時は赤地に藤だったように思ったんだけど…。
作りし罪も消えぬべし
作りし罪も消えぬべし
鐘の供養に参らん
この謡がね~、よく通る美声を低く響かせてね~、ゾクっといたしました。
しかし、この謡の文句をよくよく考えてみれば、この白拍子花子は鐘の供養に行けば、自分が昔作った罪(安珍を焼き殺し、蛇に身を堕とした罪?)はきっと消せるに違いない、と言ってる訳です。
だから、本当は鐘供養に参加して成仏したい、と願っていたはずなのに、いざ鐘を目の前にすると忌まわしき記憶がよみがえってきて、同じことを繰り返してしまう…。
ううう、可哀想な清姫、とその化身の白拍子花子…。
さて、鐘供養を見せて、という白拍子にクラっときた寺男Aは固く女人禁制を言われていたことを無視して、舞を舞うことを許可します。(←お約束)
ここでシテは後見に烏帽子をかぶせてもらい、いよいよ「乱拍子」でゴザイマス。
小鼓は住駒匡彦師(披キではないんじゃないカナ?)
シテとのタイマンに見所も静まりかえって、シテが全身を背後の小鼓に集中させながら、爪先をゆっくり左右に動かす様子を固唾を呑みながら見守っています。(もちろん、まり子も!)
乱拍子は、道成寺に至る長い石段を登るところを表現しているそうですが、(多分)一段上るときに身をぐうっと沈めて一度空足を踏み、それから本当に拍子を強く踏むのかな~、と思って観ておりました。
しかし、どうした訳か、眠くなりましたの…。
今まで一度も乱拍子で眠くなったことないのに…。なぜ?
おシテ様がテンション張りっぱなしでややリズムが単調だったからなんでしょうか?
長い乱拍子が終わった後には、急ノ舞…、このあとに烏帽子を飛ばして鐘入りがあると思うと緊張がイッキに高まります。
シテの急ノ舞を観るのも忙しいのですが、この間に辰巳満次郎様

これは鐘を吊り上げる以上の緊張です。ちょうどシテが入れるぐらいの高さまで、ズリっズリっと下ろしてゆきます。
ここで鐘をうっかり落としちゃったらお話にならないどころか、危険だし、すべてがパアだし、その緊張感たるや舞台で急ノ舞を舞うシテに負けず劣らずではないでしょうか?
つられてまり子もドキドキしながら、この緊張感と辰巳満次郎様

満次郎様

(最後の最後は家元の判断で手を放すので、その直前に満次郎様

地謡はクライマックス!
月落ち鳥啼いて霜雪天に
潮程なく日高の寺の 江村の漁火
愁ひに対して人々眠ればよき隙ぞと
シテはワキ座で眠っている僧達を確認するように左右と顔をきって確認し
立舞ふ様に狙ひ寄りて 撞かんとせしが
今度は鐘を見込んで、あたかも鐘を抱き寄せるかのよう駆け寄り
思へばこの鐘恨めしやとて
烏帽子の顎にかけた紐を解き、扇で烏帽子を叩き落とし
(スパンっと、見事に舞台に烏帽子は舞台に落ちましたっ!)
龍頭に手をかけ飛ぶとぞみえし
鐘の真下に入って鐘に手をかけて激しく足拍子を踏むと…
引きかづきてぞ失せにける
シテが体をまるめ膝を折ってジャンプっ! と同時に
どど~ん!!!
シテは吸い込まれる様に鐘に入りました。
あら、後編じゃ終わりませんね。完結編につづく。
