話は飛びますが、5月某日、ダンスオブシヴァ、というイベントでのこと。
山奥で泊まりがけのイベントです。
ミュージシャンは一応キャビンもあてがわれて、私はアウトドアの準備もないのでキャビンを希望したのですが、同室に何十代も続くインドタブラの家元の息子だというタブラプレイヤー、アリフ・カーン氏がおりました。
彼は今回のシヴァのメインゲストの一人で、まぁそのタブラの音には神を見る、いや聞く思いがするというか、千年単位で継承されてきたものに宿る何かを確かに感じたのでした。
しかし、私は疲労もあってか、いつもにも増してすさまじく壊れた英語しかしゃべれず、結局彼とは、旅をした先で苦しんだ様々な虫の話とか、そういうくだらん話ばっかりしておったのです。
その彼、キャビンにマイシーシャをキープするほどのシーシャ好きで、
朝起きたら一服。
演奏終わった夜に一服。
という具合。
「よかったらあんたも一服どう?」という感じで、時を選ばずシーシャパーティー開催です。

「シーシャはインドでもポピュラーなの?」と聞くと、
「シーシャは世界中でポピュラーだよ。」
と、なにいってんのそんなの常識じゃん、みたいなそっけないお返事。
「ふーん、中東付近ならよく見るけどねー」
と答えたところ、
「そうそう、俺、シーシャが吸いたくて、カイロまでいったんだよー」
とカーン氏。へっ!?私のヒアリングのし間違い?と思いましたが、
「れありー!?」とか適当につないでみると、それはこんな話。
「そしたらさー、あいつらのシーシャ、たて方が雑すぎるんだよなー。まずいっつうの。だからさ、カフェで、『こうやるんだよ!』って、見せてやったんだよ。そしたら、あいつらも美味い、って感心しちゃってさ。金払えって感じ。カイロまで行ったのにさー。でも友人のコネをつかってナイルクルーズで一発ギグさせてもらえる事になってさ。タブラたたいてきたよー。」
「ナイルクルーズで、エジプシャンタブラでなく、インドタブラを!?」
「そうそう(笑)」
ということで(以上わたしの壊れた英語脳によるヒアリングなので、多少のフィクションが含まれる可能性があります)、シーシャのために本当にカイロまで行ったという事がわかったのだが、
そこで。
「しっかし、カイロの交通事情はヘルだねー!」
「え、インドも相当なもんだって聞くけど、インドよりひどい?」
「インドなんて目じゃないよ。何だあれ。俺はぜったいあそこで運転する気にはならないね。ワーストワンオブザワールド。」

と、インド人の彼のお墨付きが出る、そのカイロの車事情。

車を運転している人にとってもかなりの恐怖が色々あるらしく、
とにかくクラクションを鳴らしまくるのは、ほんとうにふら~っと歩行者が止まらないで出てくるとか、車がウインカーも出さないで曲がったりとか(そういえば、ウインカー出して曲がる車、あんまり見た事ない。あ、珍しく点滅している、と思ったら、ずっとつきっ放しで消すのを忘れてる、というのなら見た事ある・笑)するので、クラクションで「話しかける」のは「必須」らしい。
こちらに在住10年以上、という方も、最初はなんでこんなにうるさいんだろうなー、なんであんなにならしまくるんだろうなー、と思っていたが、一度その「ふら~っと」歩行者を殺しそびれて以来、エジプトマナーによるクラクションを導入したという事であります。

さて、その車ですが、歩行者にとってはなにが困るって、
横断歩道というものがないのですよ。従って、信号もほとんどない。
四車線あっても、十車線あっても、基本は走る車をよけたりとめたりしながら、モーゼが海を割るごとく自力でわたらねばなりません。
大きな道路の向こうの、あの、あそこのスーパーに行きたいのよ…
という場合、その道路がほんとーに天の川くらいの絶望的な勢いで見えます。
というのも、カイロの道路の作り方は、できる限り車が停車しないでいいように、循環型で組み立てられているとの事で、走り続けて目的地まで行けるようになっとるそうです。ほんとかいな。観察していると、道路が交差していても、片方を信号で止めて、片方をまず行かせて、という感じではないので、なんとなくお互いが加減し合って譲り合ったりつっきったりしてやっとります。

また、道路の幅はえてして日本よりもゆったりたっぷりしているのですが、
そこに駐車する車によって、4車線くらいの道路が1車線になってたりということもよくあります。
さて、その二列だか三列だかに縦列駐車した車の真ん中辺のひとは、いったいどうやって車を出すんでしょうか。

まず、外がわ(道路よりということですね)の真ん中編に止めた人は、基本鍵をかけないでおくのが暗黙のマナーらしい。(!)
そうすると、内側の人が車を出したいときは、外側の車をまず人力でおしのけて(!!)、そして車を出し、そしてまた人力でもどす、とこういう事になる。
しかし中には、「そんなことして盗まれたらたまるかよ」と(じぶんの路駐は棚に上げて)鍵を閉める人も当然いる訳で、
あるいは二列どころか三列くらいの縦列駐車もあるわけで、そんなときは、どうするのか。

なんと、道の周りになんとなく座っているおっちゃんたちを呼び寄せ、車をもちあげさせて(!!!)外に出すというのです。
なんてこったい。

こんな社会で、車をいい状態でキープするのは、至難の業、というか、無理。
友人の旦那さんは、人がそのためだけに在中している駐車場に車を入れているようですが、
そうでない場合、バックミラーのカバーとか、タイヤのあれこれとか、ワイパーとか、
気がつくとどんどん持っていかれるそうです。
だからもう、それは修理しないんだって。修理してもまた取っていかれるのがわかっているから…
なんてエコロジカル!(笑)

昨年来たとき、オールドカイロを案内してくれた大学の教授というエジプト人は、
兄弟だかいとこだかの新車に乗ってやってきました。
オールドカイロは、その名の通り、車なんてない時代につくられた街なもんで、車の幅なんて計算して道幅作っているわけない訳よ。
そこに、ガンガン車を切り込ませていくのはエジプトマナーらしく、そういう人はいっぱい他にも見かけど、
細い一本道。真ん中編まで来たところで、なんと向かいから15台くらいの車の列が。脇道はありません。引き換えそうにも後ろは人やらロバやら馬やらでぎっちり。向いの車の列は、どうも結婚式の参列らしく、大にぎわいで、こっちの車なんてあんまり眼中にない感じ。
さて、どうしたか。

ぎりぎりですれ違ったのです。

普通のぎりぎりじゃないですよ、ほんまもんのぎりぎりです。
両脇はでこぼこしたかたい石造りの建物の壁。
乗っている間中、右からも左からも、ぎぎぎがががという大変不吉な音がし続けておりました。
当然の事ながら、後で見ると、
白い新車に、くっきりと、ストライプが入っておりました。

いとこだか兄弟だかと殺傷沙汰にならなきゃいいけど…と、真剣に心配をする私をよそに、
エジ在住歴のながい友人は「ま、エジプトじゃ新車の寿命は短いから。いずれこうなるよ。」

…そうですか。
そういうもんですか。
ほんとにそれでいいんですかー!!!


そのほか、カイロ名物は単車の複数人乗り。
二人乗りは、あたりまえ。じーちゃん同士ですら二人乗りしています。
若い子が三人で。赤ちゃん抱いた奥さんをのっけて。
さらには、赤ちゃんを抱いた奥さん、その間に子供一人とばーちゃん、…5人!?とかね。
こういうのが、車の陰からその脇をねらってひょいっと突っ込んでくるので、
ただでさえ止まる気配のない車の間をぬって道路をわたるのにヒーハー言っているところに持ってきて、本当に心臓が口から飛び出そうになります。
白いボディに、下がブルーのマイクロバスは、その外見からして、すでに相当ヤバそうな感じむんむん。車の前が完全にブッツぶれていたり(喧嘩に強い猫は前側に傷をもつと言われますが、あれですね。一歩も引かず向かっていく、ということですね。)暗い車内とは裏腹に、いかがわしいブルーや赤の電飾ギンギンだったり。一応人を運ぶ乗り物ですが、見るからに警戒色ギラギラな感じです。とてもサラームな乗り物とは思えません。とにかく無傷のマイクロバスをみたことは、まずないです。ドアがないのも当たり前。ドアからはみ出て人が乗ってたり。そして結構な確率でギンギンにシャァビな音楽がかかっています。
この音楽を始め、うるささで群を抜いているのが、トゥクトゥクです。
黄色いボディの三輪バイクで、後ろに座席がついています。エジプトの人々の見事なお尻を考えると、1.5人がせいぜいな幅ですが、一応大人三人がけが基本らしい。運転しているのは、たいてい10代半ばの青年(…というか少年…)で、これでもかというほどの大音量で音楽がかかっており、さらにそれにも負けない勢いで、クラクションをならし続けます。座席は固いし、車輪も小さいので、
舗装のしっかりしていない道でのろうものなら、お尻に青あざ、尾てい骨にヒビ、位の勢いでガンガン叩き付けられます。急発進急ブレーキが基本。もはや、交通というよりアトラクションと思った方が楽しめます。
これらマイクロバスやトゥクトゥクは、基本先に行かせた方がよいようです。止まってくれると思わない方が身のためなようです。日本のタクシーもかなり歩行者見てもとまりませんが、あんなのかわいいもんです。なんせ、そんなに大きな道じゃなくてもスピードがすごいんだから。
 
 と、こんな感じのなかなか喧噪としたカイロですが、
私はこのテンポ感、色合い、スリル、これらにドキドキしたり、舌打ちしたり(車からニーハオとかいわれるしね)、地団駄踏んだり(わざとよけずにぶつかりそうになってきたりするからね)しながらも、嫌いにはならないのであります。全体の醸し出している感じが、なんというか、
あー、これカイロのリズムなんだなー、カイロの音なんだなー、という、いわば風物詩なんですな。
シャァビの音楽は、こういうところから生まれてくる、そういう音なんだな、と思います。

実際にクラクションのならしかたには、明らかにエジプトのリズムと密接な関係が見られます。
結婚式の車はたいてい「ザッファ」のリズムでクラクションを鳴らし続けています。
「D-PPP-P-D-P-P---」というかんじ。
最近よくすれ違う暴走族(若い子たちのバイクと車の群れ)は、音楽をがんがんにかけて、色々奇声を上げて飛ばしながら「マスムーディカビール」のあたまのところだけを繰り返してました。
「D-D-PPP-」
ほかにもよく聞くのは4拍子の「バラディ、DD-PD-P-」とか、トゥクトゥクの子の早撃ちでファラヒを聞いたときはその早さにビビりましたね。2拍子で「DP-PDーPー」 

おもしろかったのは、こっちではけっこうクラクションを改造しているのがあって、
車から、かつての日本の暴走族のような「ぱらりらぱらりら」というのが聞こえたりするのですが、三音目があがりきらないで微分音なため、マカームラストに聞こえたりとかね。

そうそう、暴走族といえば、よく日本ではハコをはいた車がありますが、
カイロではどうしてもスピードを落としてほしいところ(小学校の前とか)に、道路がもっこりもってあるので、あのハコは一発でやられますな。カイロ向きではないようです。なんせ、歩行者も暗くて見えないでつんのめりそうになるくらいがっつりもってありますから…(そんなの私だけか)

本来カイロといえば「タクシー」で苦しむ人が多いようですが、今回私はメトロに乗っているので、あんまり使っていません。一度つかったタクシーのおじちゃんも、静かで良い人でした。
最近白タク(こちらでいうメータータクシーの事)が増えて、カイロのタクシーは初心者にとってめっきり使いやすくなったようです。


エジプトです。
例えばこんな風に一日が過ぎていきます。

流れ星 流れ星 流れ星

夜明け、なんだか変な鳥の鳴き声が窓のすぐ外でしてて目が覚める。
まるで英語を話しているような、人間の声みたいな鳥だ。
と、思いながらうとうとしていると、アザーンが地をはうように低くうなり始める。
ここマァディの近くのムアッズィンは華美を排したストイックなアザーンだ。朗々と歌いあげることも、マカームの精緻な美しさを追求することもせず、まるで経文のような調子。その響きはまるで、遠くで鳴っている火事のサイレンのようにも聞こえる。
この地を這う感じが、暑い一日のムードと、これまたものすごく合う。
相乗効果で陽炎が目に浮かぶような、もはや暑さから逃げ場のない気分になる。

再び目を覚ますと、家主は昨日の夜言っていた通り出かけようとしているらしい。
サンダルを靴に履き替えた足音になって、ドアが開いて閉まり、足音が遠のいていく。
それを聞きながら、今日はさらに寝坊することにする。
金曜日だから、私も休日をすこしお裾分けしてもらう事にする。

8時になって、いちど起きて、オレンジの今日のノルマの分をしぼってジュースを飲む。
キロ買いするので(それでも0.5キロにしてもらったんだけど、ノスって言ったら売ってたおっちゃん、おいおい、半分にしたら2ギニーちょいにしかならねぇよ、オーマイガーってな感じだった)
かなり計画的に消費していかないと、余ってもこまるし、足りなくなってちょっとだけ買うという事もできない。短期滞在のつまんないところだ。
朝のうちはそれでも風が吹くとなかなか気持ちがよくて、ジュースを飲み終えてまた、うとうと。それでも、家主が留守の間にのんびりシャワーを浴びようと思っていたのを思い出して、浴室へ。
シャワーを浴びて、作り置きしてあるレモネードを飲んでまた、うとうと。(買い物事情で色々不足するとよくないので、中東一人自炊生活のときはたいていこれを作り置きしている)
今日は夜遅くにレッスンなので、本当はもう少し寝ていてもよかったかなー、と思いながら、だらだら過ごす。

はっと目が覚めると、久しぶりに朝風呂なんてしたせいか、猛然と空腹。
このところ、朝も昼も果物やヨーグルト程度であんまりおなか減らなかったのだが、今日はなんだかもりもり食べたい感じ。
家主の保温しているご飯に胡椒、オリーブオイル、醤油、そしてこの前まで止まっていた友人(家主は彼女の上司にあたる)が持たせてくれた(本当はパーティーに出そうとしていたのに忘れてしまったという)レッドキャビア、つまりイクラ、をトッピングして、わしわしと食べる。いい加減な飯だけど、ウマい。久しぶりに朝ご飯食べちゃった。

 洗物を片付けて、お茶を入れて、10時過ぎ。だらだら練習開始。
昨日の夜、また久しぶりに喉が痛くなっていて、なんだか体が休息を求めている感じなんだなぁ…と思ってふと気がつくと、エジプトに来てからまだ一日も「休息日」をとっていないではないか。
曜日の感覚もないし、移動も多いし、生活も買い物もあるし、気がつくともう半分以上過ぎちゃってるし。ま、体がだらだらしたくても無理ないわな、と思いながら、引き続きだらだら練習。

昼になって、いつも通り(というか、これもノルマだ)プラムとヨーグルトと蜂蜜、それにちびレモン(香りが強くてライムに近い風味)をしぼってフルーツサラダにして食べる。
あったかいお茶を飲みながら、まただらだら練習。

この前から一人でレッスンに行っているので、どうも先生が出した課題が今ひとつはっきりしない。
後から来た(すこーし英語を話す)ウード弾きが、通訳してくれたところによると、「練習を頑張らないと行けない。というのも、次から新しい曲をやるからだ」と言う事なんだが、それは、いままでやっていた曲をもう一回レッスンして、次に進むので今までやっていた曲をしっかりし上げろ、という意味なのか、それとも次やる曲をしっかり予習してこい、という意味なのか。

…ということを英語で説明して、理解してもらって、それをアンミーヤで先生に聞いてもらって…というのは、色々無理なので、「はい」と返事をして帰ってきたんだけど。

というわけで、よくわからないので、両方を頑張る事になるので、大変さも倍。
やってもやっても終わらない。

だらだら時間が過ぎていく。

途中、エジ在住の友人に電話。
もっとさっさと電話するべきなのだが、
一週目は落ち着くのと怒濤のレッスン(突然呼び出されたり、いろいろ不定期だった)攻撃で撃沈、
今週は移動と新しい場所に落ち着いてペースを作り直すので撃沈して結局会うべき人に半分も会えていない。
今日のレッスンが終わったらとりあえず明日はオフ日という事にしよう、と決めて、明日会う約束をする。オフ日ときめると、じゃぁあの人にも会いたい、あの人にも電話しないと、と思うのだが、ただでさえ不慣れな異国の地で、一日でそんなにいろいろ会えるもんなのかどうかもわからない。
というか、エジについてほとんど電話していないのに、もうチャージが切れてかけられなくなった。いったいどういう料金システムやねん。しきりにメッセージはくるが、アラビア語なんでわからんつうの。ということで、電話が不通。

…ま、いいか。明日になってまた連絡してみようっと。

こうやってインシャーアッラーな性格が培われていくに違いない。

ずっと同じ姿勢でだらだらと弾いていたせいで、肩甲骨がぎしぎししてきた。
練習中考えているのは、レッスンの課題についての考察6割、後の4割は今日のご飯の計画。
そうやってぼんやり頭のすみで消費しないといけない野菜の組み合わせなどを考えていると、メニューが天から降ってくるのである。
ふと野菜がもりもり食べたい、そしてスープがのみたい、という衝動がメラメラとわいてきたので、
猛然と料理に取りかかる。

家主の食在庫からタマネギとにんじんとジャガイモをいただき、そこに消費ノルマの一つであるピーマンを加えて、全部千切りにし、少しの油で炒めたところに水を入れて、本当はコンソメで味を付けると無難なんだろうけれど、さすがにこの手も使い果たして飽きてきたので、ストイックに塩味だけにしてみる。出来上がった頃には汗だく。そして、熱いスープを食べたらさらに汗だく。
ぐったりしてしばらく休憩。

そうしているうちに家主が帰宅。
そしてまた出かけて、しばらくしてからまた帰ってきた。
今日は家主も休日なので、休みをエンジョイしている模様。
二度目の外出は床屋だったそうな。

また練習再開。
そろそろもう一曲のほうに取りかかっておかないとイカン。
しかし、先生がくれた楽譜は、先生が演奏している音源と決定的に違う音がいくつかある。先生自身は楽譜を読まない人なので、おそらく弟子が書いているんだろうということはわかっている。
これは今日先生の演奏聞かないとどっちかわからんなー…と思いながら一応二通り音をさらう。
とにかくこの音の配置が、ひじょーに難しいのが一つの課題なのだが、その音がさらにどっちかわからないということは、難しさも倍増ではないか。

そうこうしているうちに夕方。
家主は食事の時間。野菜スープを作ったので、よかったら召し上がってください、と勧める。
私の食事はたいていが「シノギ」的食事なので、人に勧められたものじゃぁないんだけど、野菜不足の解消には役に立つに違いない。と前向きに考えて勧める。
今日は夜遅く外出して、いつもみたいにお互いの食事がおわったら一緒にスイカを食べるということもないので、私もレモネードを飲みながら家主と会話を楽しむ。

ここエジプトにいて今回痛感したのは、「神を忘れた国、日本」ということだ。

そんな難しい話をしていると、あっという間に出かける時間になった。19時半過ぎ、外は夕闇。
早めに出て、エティサラットのヘッドオフィスに行ってチャージしてすぐ使えるようにしてもらわんと。しかし、ヘッドオフィスは駅の近くのどこだったかなー…
あ、あったあった。

エティサラットのヘッドオフィスはすばらしい。インターネット用のUSB、去年のが使えなくなっていて、チャージのせいかと思ってチャージカードを買ってみたら(通常こういうのはそこいらの売店などで売ってます)、チャージができたものの、相変わらず使えない、という状況で、友人は、もしかしたらそのチャージの100ギニーはパァかもよ、と言っていたのだが、ヘッドオフィスに行けば一発、まずチャージを取り消してくれて、USBを使えるようにしてくれて、たったの15ギニー。というわけで、何かあったらできるだけヘッドオフィスに行くのが望ましいと言う事がわかった。店員も(エジプト人じゃないんじゃないかと思うくらい・失敬)もの静かで優しく、丁寧だし、英語ができる人も必ず配置している。電話のチャージもパソコンでチャチャッと。
予定外に早くすんでしまったが、すぐ駅なので、先生の家に向かって出発。

先生のお家は、マァディからだと駅を10以上も乗っていかないと行けない。遠いのだ。
それでもさすがに早く着きすぎて、普通15分程度の道を、だらだら25分くらいで歩いていった。
それでも先生はまだ夜のお祈りから帰ってきていなくて、奥さんが「タファッダル」と迎え入れてくれる。
明るくて元気のよい奥さんで、しかしながら英語は話さない。
私がアラビア語をどの程度理解しているのかという心配をみじんもする気配がなく、安心しきってアラビア語で話しかけてくる。もうこうなったらヤマカン合戦だ。

ん、なになに、ああ、このまえみたいにPCつなげて先生の動画見せてくれるのね。
あ、コンセント入れて。スピーカーもつないで。
これがきれいな曲だから、って言ってる気がするな。はい、クリッククリック。
なに、カビーラ?ああ、画面を大きくしろって言うのね。
あ、お菓子、ありがとうございます。(かならず壷に入ったチョコなどをすすめてくれるの。私の年をすごく勘違いしてるんじゃないといいけど…)

などと、ほとんどテレパシーのような状態で会話を受信しているうちに、先生が帰ってきた。
先生がタバコを一服して、二人でチャイを飲みながら録音を引き続き聞いていると、
毎回レッスンを見学にくる親子連れがやってきた。
というところで、レッスン開始。

おおー、いきなり新曲ですか。やっぱりこの前までの曲はもうよかったのねー…(実はこっちの方をたくさん練習していたんだけど)

という感じでレッスンが始まる。
今日は英語しゃべれる人もおらず、引き続きテレパシー受信機能で会話。

しかし、音がいい悪いや、もう一回、繰り返せ、頭から、とかそういうのは本能的に(だからいつまでたっても会話がダメなんだけど…)わかるものの、
音楽以外のところの細かいニュアンスがやはり、わからない。
一緒に弾き終わって「ガミール!」と言ったのは、私を褒めてるのか、それとも「きれいな曲だ」と言っているのか。
「頑張った」といっているのか、「もっと頑張れ」といっているのか。
もし先生が褒めているのだとすると、お世辞などみじんもない人なので、これを逃すのは非常にもったいない事な気がするのだが、
いつも半分は「?」がつきながら「…シュクラン…?(というべきところなの…か…?)」「ケティール…?(もっと頑張ってこい…って感じ?)」みたいな、半分尻上がりで歯切れの悪い返事しかできない。
しかし、「ヴァイオリンもさておき、エジプトの言葉も練習しないとな」と冗談で奥さんに言ったのは、なぜかテレパシーでキャッチできたよ、先生…

おそらくはたからみているとかなりトンチンカンな感じのレッスンも(奥さんがいつもみているのはそれを楽しみためではないと思いたい)、先生の「クワイエス?」の一言でおわり。
あ、なんとなく、今日はこれでいいか?、って事だね?と理解。そしたらいつの間にか一緒に参加していた(アカデミーヤの卒業生だ、と、言った気がする←これもすべてヤマカン)子が、「いやいや、まだあと数小節あるじゃないですか先生」と言った(←これもすべて…以下略)。あー、一曲通すのはやはり無理だったかー、と私も思った。でもよいのだよ。そこから数小節が、一番難しいところなのだよ。これからやったら多分もう一時間かかって、お家に帰れなくなってしまうのだよ…もう10時半近い。ここから恐怖の夜電車で10数駅も帰るのだ。

先生のお家から駅までは、典型的エジプトらしい車の運転がよく見られる。
というのはつまり、スピードかつヴァイオレンスかつノイズィーということである。
要注意なのは、車の脇から急に出てくるバイク(たいてい二人以上が乗っている)や、マイクロバス(半分がラリっていて半分は気が荒い。一回冗談だろうが私にめがけてまっしぐらにスピードあげたヤツもいた。エジの冗談は、いろんな意味で笑えない感じのがかなり多い)、そして大型車両だ。
ノイズィーである事に関しては、日本の暴走族が、平均的エジプトの運転よりちょっとうるさい程度、と言えばよいだろうか。普通の人でもクラクションの鳴らすリズム感と雄弁さに関しては、日本の暴走族の目ではない。「そこ通るよ」「止まんねえからお前が止まれ」「結婚式帰りだぜ、おめでたいぜ~」「新車買ったぜ~めでたいぜ~」「イェーイ飛ばすよー」「どけどけー」「アブネェじゃネェかどこみてやがる」「なにぼけっと歩いてんだバーカ」などの会話が、すべてクラクションで表現される。
それらの標本のようなものがたいてい網羅できるのが、この地域。
道を渡るときはホントーーーに怖い。
そんな夜道をドキドキしながら駅に着いて、ようよう来た電車に乗り込めば、
今度は夜になるとお決まりのパターン、女性車両に男性乗り込み険悪ムード。
男性がでーんと踏ん張っていると、女性は接触したくないもんだから手すりも持てないし、その周りをなるべくあけようとするから込んでいる電車がいっそう混むし、揺れたらお互いをつかみ合って支え合い「マーレーシ」合戦。このとき本当に人の二の腕の肉握りつぶす人いるからね。一度でいいから「ムシュマーレーシ!」と言ってみたい。
さらに今日は金曜日だから、タハリール広場でムルスィ勝利で盛り上がった人々はじめ、夜遊びした人、疲れた人のオンパレード。タハリールも近くなるとそんな人たちがどどっと乗ってくる。さらには、すでにホームでさんざん喧嘩して、そのまま女性車両に乗ってきて喧嘩の続きの男女(赤の他人同士です)。となりのドアでは車内から横暴な男性客をみんなで突き落として、突き落とされた男性たちが女性に攻撃仕返したり。そんななか、しれっと乗ったままの男性。その男性をさらしてやろうとおもったのか、ケータイで写真取り出す女性。もうしっちゃかめっちゃか。

どうか今日は本格的大乱闘になりませんように、といっこいっこ駅を数えてなんとかかんとかマァディにたどり着く。
また引き続き真っ暗道でマイクロバスやバイクの猪突猛進におびえながら、
お家の玄関に到着。
ようやくお家に帰れる…ようやくお家に…
とおもって、ドアの前。

鍵が開きません。

きのうもおとといも普通に開いたのに、なぜこの深夜、急に開かなくなんでしょーか。
格闘する事30分。その間に、自動で消える階段のランプが何度消えたか。(その度につけ直す)
もう汗だく。しかし神への祈りは通じず。
結局家主を起こすしかない、と決めてインタホンを鳴らすが、何度鳴らしても起きてこない。
起こすのも申し訳なくて、またしばらくあけようと頑張るが、やはり無理。
インタホン。
起きてこない。
また頑張る。
最終的に、気力も尽き果てて、ケータイに電話して、結局叩き起こしてしまった。

レッスンが終わった時点ですでに空っぽだったところから、長い移動、そして最後のだめ押しにすべての予備電力を使い果たし、しばらく放心状態。
自分を整理するために、洗物をして、夜食を準備…し始めたら、
とまらなくなって、結局(なにも今する必要ないのに)ピーマンと茄子のマリネが完成。
気持ちも落ち着いたので、昨日の残りのババガンヌーグとアエーシ、マリネを食べて、ようやく一息。
着ていたものを洗濯して、干して。

長い一日が、終わる。




















エジプトです。
今日もガンガンに暑いです。
暑さのせいか、それともお国柄か、
外出すると必ず一回はけんかに遭遇します。
日本と違うのは、みんなそこに率先して参加することですね。
議論にも加わるし(結構知らない人同士が普通に話すことが多い)、
けんかは野次馬から止めに入るひとから、一緒に戦うひとまで。

そんなけんかがよく見られる場所の一つが、メトロです。
私はメトロが大好き。

若者(というか少年だな…)が運転するトゥクトゥクは現地のひとでも警戒して乗らない人がいるくらい、危険で怖いもの知らずだし、(でも娯楽としてはシャァビ感は満点で楽しいっす)
小さなシャトルバスみたいなのは、どこに行くかがみただけではわからないので、
かなり慣れが必要。
タクシーはメーターでも時にやな思いをしたり、あるいは行き先を知らないのにOKしてのせて、すごく迷ったり。
バスもあるけど、路線になければそれまでだし。
そして、これらの車につきものなのが、渋滞。
引っかかると全く時間が読めません。状況もわからないし、かなりやきもきします。
なにか目的があるときに一番確実なのは、メトロなのです。

もう一点、メトロでいいのは、女性車両があることなんですねー。
女一人でも比較的安心して乗っていられます。
Ladiesと英語でも書いた青いランプとランプの間に、女性車両が来ます。
そのうち、緑のラベルの車両は、遅い時間になると男性も乗っていいことになっていて、
赤いラベルの車両はずっと女性車両。

この女性車両に乗ることが許される男性は、
子供、そして、私が内心「はったあいずさん」と呼んでいる行商の人々。
行商の人々には女性も男性も子供もいるのですが、
だいたい「はったあいず~」という大きなかけ声と大量の商品とともに乗り込んできます。「~いらんかね~」という感じですね。
ティッシュ(家庭用のやつを5パックばかり。かなりかさばります)、扇子、子供のおもちゃ、バンドエイド、胡椒や塩を入れる容器、女性用髪留めやヒガブ用のピン、櫛、携帯電話のチャージカードなどなど、ありとあらゆるものが車両の中で取引されています。
時には「はったあいずさん」ではなく、本当に物乞いの人々もいます。目が見えなかったり、腕が不自由、足が不自由、などなどの人々。一応なけなしの商品を持って商売をしているひともいれば、物乞いだけで車両を回っているひともいます。
混んでいる車両に、こういう人々がひっきりなしに出入りし、そして、「おりるひとが先」というようなルールはなし、乗るときも我先に押しのける感じ、降りるときもがむしゃらに乗ってくる人と戦う感じ、と、こんな感じでかなりドラマティックな車内です。
また、座席についても、「そこには大人のお尻ははいらんだろー」というような隙間でも、隙間があればお尻を押し込めるのがこっちの座り方。そういうわけで、日本のようにへんに隙間のあるだらけた座り方をしたシートなど、一つもないのはいいことかもしれません。
暑くても押し合いへし合いしてできる限り座るのです。
また、ちょっと大変そうだな、という人を見たら、ほんとうにすぐに座席を譲ります。
こちらでひとを呼ぶときは「プスプス」と、声ではなく空気だけで音を口で立てるのですが、そうやって相手の注意をひいて、ぱっと譲ります。
大荷物で大変そうなひと、おばあさん、赤ちゃんをだっこしているひと、などをみたら、即座に誰かが席を立ちます。

昨年滞在したときは、なぜかしょっちゅう席を譲られた私。
黒い服きていたからかなぁ、と思ったり(喪に服している意味もあるようです)、体調が優れないから顔色があんまり良くなかったのかなぁ、とおもったり、その理由は謎なのですが、
「ぼけっとしてないでここすわんなさいよ!」とおばさんに言われたり、私より年上だろうと思われるひとに座らされたり…

でも今年はまったくそういうことはありません。ある意味、元気にみられているということですな。よいと思います。

さて。
このようなあったかい感じの女性車両ですが、
夜遅くなってくるとちょっと事情が変わってきます。
赤いラベルの車両なのに、男性が乗ってくるのです。
夜遅くに外出している女性は比較的少ないこともあると思いますが、一般車両よりすいているように見えるんでしょうね。
うっかり乗ってしまって、「ここ女性車両よ、赤いところだから終日男性はのれないのよ」とか言われて、「あー、ごめん、次で降りるよ」となれば、平和でよいのですが。
ここで、夜遅いし、暑いし、いらいらしてたり、あるいは明らかに確信犯でのってきたりした男性の場合、たちが悪い。「なんで乗っちゃいけないんだよ」の一言から喧嘩になります。女性を殴ったりする男性もいて、そうなると怒り狂った周りの女性が今度は席の上に立ち上がったところから馬乗りになったりして、大乱闘です。
あるいは、女性の連れ、旦那さんとか恋人とか、兄弟とか、が、女性車両に連れ込まれている場合もあります。
このばあい、最初は文句言われたのが男性だったのに、気がついたら女性同士の壮絶な戦いに発展したりします。
駅から駅に着くまで、その車両は阿鼻叫喚。「ハラース!」(もうやめー!)という絶叫がこだまするのです。
こういう場合、安全第一に考える場合は、即座に次の駅で降りて、一台待つのがよいようです。
(走り出してしまうと密室なので、逃げ場はありませんので。)
ただし、一台送った次の電車で、また乱闘勃発、ということもありました。
暑いし遅くなって疲れてるし、なのは、皆同じなのです。

もひとつ車両で不思議なのは、降りる専用の出口と乗る専用の出口、というのが一応あって、(みんな無秩序に乗ったり降りたりして押し合いへし合いになるからだと思われるのですが)、しかしながらこれがその通りだったことは滅多になく、普通にどのドアも乗り降りどちらにでも使われています。(だから結局押し合いへし合いになるのですが)
ただ、時々どういう法則かわかりませんが、開かない扉があるのです。
そうなると、降りるひとも乗る人も「ミフターシュミフターシュ」(だめだここ開かないわ)と大慌てで別のドアに突進します。まるでフルーツバスケット(ゲーム)みたいな感じです。

座席は固いし、扇風機もあったりなかったり、あっても壊れてたりで暑いし(手すりをもつと熱をはなっています)なのですが、こんなかんじのドタバタなメトロが、私はやはり使い勝手よくてとても好きなのです。