今日は大分県宇佐市の宇佐海軍航空基地を取り上げます。
場所を確認します。
昭和11年(1936)12月末にてワシントン・ロンドン軍縮条約が失効となったことで、日本海軍は軍備制限のない時代に入りました。海軍当局は昭和10年末から軍備補充を研究準備してきた結果、昭和12年度海軍補充計画(第3次補充計画~通称㊂計画)を実行に移しました。
本計画では戦艦大和・武蔵以下66隻と航空隊14隊を整備するものでしたが、航空兵力の膨張に対し搭乗員の養成が緊要事項となりました。霞ヶ浦と横須賀の練習航空隊2隊では到底カバーしきれませんでしたので、新たに10隊の練習航空隊の増設が決定されました。この10隊のうちの1隊が宇佐海軍航空隊(以下“宇佐空”)で、当時の大分県宇佐郡柳ヶ浦村に昭和14年(1939)10月1日に開隊されました。
宇佐空の九七式艦上攻撃機。尾翼に「ウサ」の文字が見える。
宇佐市平和資料館展示の撮影用に制作された九七艦攻の尾翼
宇佐空では航空母艦の艦上攻撃機や艦上爆撃機の搭乗員および偵察員の養成を担当し、予科練生を随時受け入れて教育訓練を行いました。昭和16年(1941)12月の大東亜戦争開戦後も教育が続けられましたが、戦争末期の昭和20年(1945)になると通常の教育は凍結されて特攻に備えた訓練が始まるとともに、宇佐基地は前線の串良や鹿屋に進出する特攻の中継基地となりました。
昭和20年3月、宇佐空は新編の第10航空艦隊所属となり練習隊から実戦部隊に転換されましたが、3月下旬には米機動部隊が九州南部に来襲したため、宇佐空において神風特攻隊の「八幡護皇隊」(はちまんごおうたい)が編成されるに至りました。
「八幡護皇隊」は姫路海軍航空隊の「護皇白鷲隊」とともに「和気部隊」(わけぶたい)を編成、4月2日より順次串良基地(艦攻隊)と第一国分基地(艦爆隊)に進出しました。
『宇佐海軍航空隊戦時日誌』に記載の4月1日時点での実働機数は以下の通り。
九九練爆ニニ型 44機
九九艦爆ニニ型 16機
九六練爆 14機
彗星三三型 2機
彗星一二型 2機
九七練攻一一型 26機
九七艦攻一一型 16機
九七艦攻一二型 5機
九七艦攻六一型 6機
天山一二型 1機
零式輸送機 1機
4月1日、米軍が沖縄に上陸。海軍は特攻攻撃にて敵をせん滅すべく菊水作戦を発動しました。4月6日の菊水一号作戦において第一八幡護皇隊の艦攻隊15機と艦爆隊14機が出撃しましたが、4月12日には第二八幡護皇隊26機、4月16日には第三八幡護皇隊20機が後に続きました。その後5月11日まで特攻出撃が行われた結果、81機154名が散華しました。
城井1号掩体壕に建てられている慰霊碑
特攻攻撃により戦力を失った宇佐空は5月5日に解隊され、宇佐基地は乙航空隊の西海海軍航空隊の管轄となりましたが、701空などの実戦部隊が基地として終戦まで使用しました。
ちなみに701空は8月15日の玉音放送後に飛び立った最後の特攻隊でした。『柳ヶ浦町史』には、宇佐基地から彗星3機が大分に移動し、第五航空艦隊長官の宇垣纒中将を乗せた合計11機にて飛び立ったことが書かれています。
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ところで、宇佐基地には昭和20年2月に第721海軍航空隊の一部が移駐してきました。721空は一式陸攻に桜花を搭載する特攻部隊と零戦の護衛部隊からなる航空隊で神雷(じんらい)部隊と呼ばれていましたが、3月18日の宇佐出撃時に米艦載機により地上で撃破されてしまいました。
その後神雷部隊は鹿屋や富高などを基地として桜花や零戦にて特攻を行いました。宇佐では桜花の出撃はありませんでしたが、戦後の『兵器総合目録』では宇佐基地周辺に桜花51機が格納されていたことが記されています。
桜花を取り付けた一式陸攻と出撃前の隊員たち
宇佐市平和資料館展示の桜花レプリカ
『兵器総合目録』に記載の終戦時における宇佐基地残存機は以下の通りですが、史料にはいずれも“損品”として記されています。
零戦 26機
天山 17機
九九式艦爆 9機
彗星 4機
九七式艦攻 5機
九〇式機練 2機
二式中練 1機
九三式中練 43機
一式陸攻 4機
雷電 1機
桜花機体 51機
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宇佐基地は昭和20年3月18日の空襲をはじめとして終戦までに数多くの空襲を受けました。中でもB29に襲われた4月21日の空襲での被害は大きく、航空隊関係者だけでも300人以上が亡くなりました。
空襲による爆弾痕は「爆弾池」として保存されています。
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戦後の宇佐基地は連合軍の接収を受けましたが使用されることはなく柳ヶ浦町に戻されました。跡地は大部分が開墾され、現在に至るまで農耕地が広がっています。
爆弾池展望台から滑走路があった西側を眺める。
反対に施設群があった東側。
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以上、宇佐海軍航空隊・宇佐航空基地の概略を書いてきましたが、続いて1947年の空撮にて基地周辺を見てみます。
滑走路は南北に1800m×80mで配置されていますが、昭和20年代に拡張されましたので当初は1300mの長さだったようです。
四角で囲った建造物が現存する遺構ですが、基地内に置かれていた建物は保存・公開されています。また基地南部と西部の誘導路地区には飛行機を格納する掩体壕が複数現存しています。宇佐市によると11基現存しているとのことですが、今回確認したのは8基となります。(番号は任意に付与) なお史料に記載の掩体数は中型有蓋1、無蓋41、小型有蓋5、掩蔽30と書かれています。
基地の東側に流れる駅館川(やっかんがわ)東岸の丘陵地には数多くの横穴壕が掘られ、兵舎、兵器・弾薬・航空機格納などに使用されました。宇佐市にて紹介されているのは高居地下壕と魚雷調整横穴壕ですが、上記空撮の範囲外にあります。
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では遺構を見て行きますが、まずは宇佐市平和資料館に伺います。宇佐市は遺構の保存・公開に積極的ですので、大変見学がしやすくなっています。
やって来ました。入館は無料です。
入館してまず目に入るのが零式艦上戦闘機二一型の実物大模型です。
後方より。
映画「永遠の0」の撮影で使われました。
先ほど掲載しましたが、桜花一一型のレプリカです。
説明書き。
桜花の部品。
当時の遺構をはじめ数多くの展示品がありますのでぜひ訪れてみて下さい。
ここで「その1」を終わります。次回は基地周辺の遺構を見に行きます。
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[参考資料]
・⑤航空部隊-航空基地-4:海軍航空基地現状表 内地の部(防衛研究所 戦史史料・戦史叢書検索)
・⑤航空部隊-航空基地-48:大東亜戦時に於ける航空基地一覧表(防衛研究所 戦史史料・戦史叢書検索)
・⑤航空部隊-航空基地-4:海軍航空基地現状表 内地の部(防衛研究所 戦史史料・戦史叢書検索)
・沖縄方面海軍作戦 (戦史叢書) (国立国会図書館デジタルコレクション)
・7302 楯部隊 宇佐基地(Ref No.C08011434200 アジア歴史資料センター)
・現状調書 昭和18年1月1日 第12連合航空隊司令部(Ref No.C13120080600 アジア歴史資料センター)
・第131海軍航空隊戦闘詳報 自昭和20年4月6日至昭和20年4月7日 串良基地に於ける菊水1号作戦(南西諸島方面特攻攻撃及雷撃戦)/1.計画(Ref No.C13120264900 アジア歴史資料センター)
・第131海軍航空隊戦闘詳報 昭和20年4月12日 串良基地に於ける菊水2号作戦(沖縄周辺敵艦船に対する特攻攻撃)/1.計画(Ref No.C13120188600 アジア歴史資料センター)
・第131海軍航空隊戦闘詳報 自昭和20年3月25日至昭和20年4月13日 串良基地に於ける天1号作戦(沖縄周辺敵艦船に対する特攻攻撃及び雷撃戦)/1.計画(Ref No.C13120266500 アジア歴史資料センター)
・宇佐海軍航空隊戦時日誌 自昭和20年4月1日至昭和20年4月30日(Ref No.C13120490200 アジア歴史資料センター)
・宇佐海軍航空隊戦時日誌 自昭和20年5月1日至昭和20年5月4日(Ref No.C13120490100 アジア歴史資料センター)
・兵器総合目録 西海空宇佐基地(Ref No.C08011381500 アジア歴史資料センター)
・兵器目録(宇佐地域 総合の部) 第12海軍航空隊(Ref No.C08011386600 アジア歴史資料センター)
・引渡品目録 西海海軍航空隊大分基地(4)(Ref No.C08011378800 アジア歴史資料センター)
・宇佐地域目録(航空兵器を除く) 楯部隊(Ref No.C08011127100 アジア歴史資料センター)
・第601海軍航空隊戦闘詳報 第4号の2 自昭和20年4月1日至昭和20年4月17日/2.経過(Ref No.C13120020200 アジア歴史資料センター)
・第601海軍航空隊戦闘詳報 第4号の2 自昭和20年4月1日至昭和20年4月17日/3.令達報告及通報 4.戦果及被害(Ref No.C13120020300 アジア歴史資料センター)
・(Ref No. アジア歴史資料センター)
・村と戦争(国立国会図書館デジタルコレクション)
・大分の歴史 第9巻 付録 (国立国会図書館デジタルコレクション)
・南溟の果てに : 神風特別攻撃隊かく戦えり (国立国会図書館デジタルコレクション)
・あゝ特別攻撃隊 : 死を賭した青春の遺書 (国立国会図書館デジタルコレクション)
・神雷特別攻撃隊 (国立国会図書館デジタルコレクション)
・あゝ予科練 (国立国会図書館デジタルコレクション)
・柳ケ浦町史 (国立国会図書館デジタルコレクション)
・(国立国会図書館デジタルコレクション)
・空がつなぐまち・ひとづくり推進協議会 | 空がつなぐまち・ひとづくり推進協議会ホームページ 「和気部隊の編成と出撃」
・宇佐市平和ミュージアム(仮称)ホームページ
・宇佐市ホームページ
・国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス