穴窯で器を焼く ② | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>


・・前回つづき


今年は大分の方々のおかげで 松の木がたくさん集まった。

穴窯用の松薪をたっぷり用意し 昨年の失敗(薪が足らず、その上 4日間寝不足で温度が上がらないまま窯にヒビを入れてしまった)にしっかり対処して 窯の修理をし 煙突も高くして心の騒ぎを収めてみた。

窯の中は奥の方に花器をたくさん詰め 周りに大きな壺を埋めて松の灰かぶりを期待した。


穴窯焼きは 大きな会社づくりとよく似ている。

最初から順調だからといって バンバンと薪を投げ込み 温度を上げようとすると 室内はたちまち温度格差が広がり、壺や大皿にスパー スパーとヒビが走り始める。


まず300度で煙突を温め 中の器たちに温度をしみ込ませる。

600度で じっくり窯の壁を焼かなければならない。

器に炎を向けるよりも 穴窯の後ろの内壁に火をしみ込ませる。

一番遠くて見えない部分に 光を当てるつもりで 時間をこの辺にかける。

器はそろそろ 完熟トマトのような ぽってりとした赤みを帯びて透明になってゆく。


900度を超え始めると こちらも一息つき 心は一挙にいきたいと逸るが ここで急ぐとのっぺりとした器ができる。

これが会社にも思い当たる。

急な成長の会社には 社内に暖と冷の部分差が出る。

穴窯の場合も この小ささでも1000度くらいで 火前と火後で2~300度の差が出てくる。ここまでくると あと250度くらいで完成なのだが ここが九合目。

ここから時間とねばりが大切で 焦り、急ぐと作品も割れてゆく。

やはり 300度、600度、900度でじっくりと窯の壁とレンガを焼いてゆかねば 作品は心打つ成長を遂げてくれない。


・・・つづく


(月刊致知2005年1月号)



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