穴窯で器を焼く | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>


想像していた以上に 台風は何度も日本を襲い、この緑の島国を南から北へ荒らしていった。幸いにして その隙間の青空の日に 稲を刈り取ることができた。今年は好天気と荒天気の落差が大きく それに揺さぶられた私の心も慌ただしく、時の過ぎゆくのが早かった。飛行機に乗って遠く旅行した時や 何度も高速道路や新幹線を利用した後は 心の「刻の糸独楽」(ときのいとごま)が止まらなくて 時間の感覚がずれてしまうことがよくあるのだが 今年(2004年)は何も思い出せないほど 一年の空間が埋まらない。


春の華やぎも 夏の暑さも 秋の紅葉の美しさも楽しめなかったせいかもしれない。時間と雨と風に追われ 追われて年末になろうとしている。忙しいのではなく 心の暦に空白が多くて楽しめなかったという思いが強い。ただ 思った以上に実りがあり たくさんのお米が穫れて、安らぎと感謝の思いを得たことが温かい。


でも詳しく振り返ってみると 今年はたくさんの幸運に恵まれていた。

春の銀座三越での個展で 陶器は新しい人々に広がり、致知出版社からは「ブッダのことば 百言百話」の本を出版させていただいた。さらに「致知」の木鶏クラブ全国大会にも出席させていただき 人の輪が広がった。田も順調で稲病を得る事もなく平穏で 北海道に新しい友も得た。こんなに平和感に満たされている時こそ おごりと怒りに気をつけて「順調であることは 励ましと警告、警告」と身につぶやいている。


しかし 雨が川を濁し、風が樹や稲を倒し 熊が慌てて騒ぎまくり 大地が揺れたせいなのか、心が落ち着かない。まぁ こんな時は この歌を大声で唱えると 落ち着いてくる。


「この秋は 雨か嵐か知らねども 我は今ある 田の草取るなり」と。


・・・つづく


(月刊致知2005年1月号)




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