<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>
(前略)
満願寺小学校の6年生が卒業記念に陶器づくりにやってきた。総勢?4名である。男子3名 女子1名という構成。この満願寺小学校は近隣で一番古く 128年続いた伝統校であるという。だがしかし この6年生をして最後の卒業生となし、学校が廃校となる。全学年総数28名のこじんまりとした なんともいえぬ佇まいで風情のある小学校である。
小さな前庭、古い設計の二階建ての木造一階に温泉がひいてある。きしむ黒光りの階段、窓の片方に児童が寄ると傾き、倒れはしないかと思われるほど こじんまりとした小学校なのだ。ここに座すと明治・大正・昭和そして平成の田舎の児童の姿が浮かんでくる。
みんな渦巻く時代と 時の流れに消えてしまったが、また新しい時の流れにこの小学校も消されていく。
校舎の左隅に25メートルプールと プールの石垣の上に広がる、これまた小さな運動場がある。その傍に不思議な空間があるので 紹介しよう。
このトトロの森のような空間の奥に北条氏三代(文永・弘安の役・元寇の西国奉行北条時定、弟定宗、隋時)の墓があり うっそうとした森を背に深い静けさの中に威厳を保って苔に包まれて立っている。ここは いつ訪れてもひんやりとした空気が漂う。
不思議というのは この墓を取り巻く七本の巨大な杉が 700年経って高く天をついているのだが、墓から光が出ているかのように 墓を中心として茶筅(ちゃせん)の先のように放射状に広がり育っている。その傍らの一本は 武将の太い腕のような枝が、力こぶを入れて「守っているぞ」と胃わんばかりに 力んでいるのがわかる。
その中心に立つといい。背中にビリビリとエネルギーが走るのを感じること請け合いだ。手をつないで杉の木を取り巻くと 大人10人前後が連なるだろう。
もう私の家の前を 朝早く列を作ってざわめき通う小学生の姿も見られなくなってしまった。小学校の校庭には子供たちの姿はなく、春の小竜巻が渦を巻いて 砂ぼこりと共に校庭の片隅に走り消えた。
・・・つづく
(月刊致知2004年6月号)