<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>
・・・前回つづき
家の前を右斜めにカーブする道や その脇を流れる川、その川岸の大木の複雑な枝模様まで 雪色の色彩だけで描かれている世界。
そらも曇天で 淡い灯りのように白光がぼんやりと漂い、辺り一帯が霧の中のように妙に明るい。そのせいで 見える世界は 白の濃淡で奥行きは感じられるものの 天地みごとに 白一色。氷河のように厳しくはなく、ひたすら優しい景色。
どうか 陽が照らないでほしい。朝がこれ以上進まないでほしい。太陽が顔を出すと 雪がきらめき ありきたりの美しい雪景色に変わってしまうだろう。こんな何とも言えぬ 白だけの不思議な空間と柔らかい空気と 雪の香りには、めったに出合えぬ。
私はこの阿蘇山と煙のやまぬ久住山の狭間に住ませていただいたおかげで 何度か その一瞬だけにしか出合えない自然の神聖さを感じる景色にめぐり合えた。本当に 心からおごりと濁りがとれてゆく思いがする。
医療や宇宙科学はもう 行きつく最先端まで技術は進んでいる。人類はこんなに高度な文明にありながらも、どうして人の心は混乱し すべての世界が敵対するかのようにして争うのだろう。
日本の社会は 教育も政治も医療の世界も、心身とも疲れ果ててみえる。
子供達は勉強しようとぜず 大人はお金と快に最大の価値を置いて走りやまず。
残忍な人殺しの横行と社会秩序の崩壊・・・。
まぁ この先 日本はどうなるのでしょう。アメリカのする事だけがすべて正しくて、戦争と憎しみはやまず 環境破壊は中国や南米でますます進み、気候の異常はもう止まらない。
人類はこんなにも進化したのに・・・。
いや この美しい景色や 千年変わらない阿蘇の草原に出合うとわかります。
人類は仏陀から わずか2500年。エジプトから わずか5000年。
まだまだ 人類の歴史は始まったばかり。幼い三歳の子。
なあに 地球はこれくらいではビクともしない。
鳥のウイルスも逆襲を始めたし 人類がひとり欲に浮足立っているだけ。
10万年後か100万年後 生まれ変わってこの地球に降り立って見るといい。
きっと人類は賢く生き残って 宇宙ともうまくやっているに違いない。
な~んも心配ない。
精妙な大いなるものの働きには かなわないさ。
濁ったものは 腐る。
腐ったものは くずれ去って 消えゆく・・・。
そして 新しく蘇る。
(月刊致知2004年4月号)