<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>
(前略)
なんと自然はこんなに美しい色を創りだすのだろう。
稲の喜びを感じてしまう。山の田の稲穂の色は 里のそれよりも色が明るく深いようだ。この稲の色に酔わない人はいるのだろうか。
辛くて悲しくて、切なくて楽しい日にこの景色に会うと その豊饒さに その色の深いやさしさに、きっと心が洗われ 時間に追われて人生を送る虚しさに気づくにちがいない。
形が大きくても 中がスポンジの人生では切なすぎるではないか。傍らの国道をバンバンと飛ばして 稲に気づくことなく、風を巻いて時の向こうにたくさんの車が消えてゆく。
この美しい稲を刈り穫るのは本当に!惜しい。でも・・・刈り穫った。二割減だった。その跡の 稲の根が点々と田に残る風景も 夕方の風景にふさわしかった。
それにしても 今年も天候が狂っていた。
秋も深まったのに いまだに晴天が続いている。
夏の始めは雨ばかりだった。
おかげで 豆やトマトやナスはさっぱり。
ダーと雨が降り パタンと止まる。
雨が要る時に降らず 降り始めると止まらず。
青空が欲しい時に青空は顔を出さず 一度顔を見せると いつまでもにこにこと照り輝く。
な~んか 何もかもがおかしい。
人も天候も川も魚も みんな何かおかしい。
いつまでも企業のトップが頭を下げ 政界も私利私欲の表舞台で 誰にも投票したくない。
教育界も混乱し 学校の先生も自信を失っている。子供たちも学校に行く意味を見失って登校しない子が増え その上 心を病んでいる中・高校生の なんと多い事か。こんなに豊かな日本なのに、すべてがな~んかおかしい。
病院も医者も 失敗を怖れ 怖れるあまり また失敗を招いている。こんなに文明が発達し機器も揃っているのに病人は増え 子供は減少し 医療費は減らず 日本中が相互不信のルツボにはまってしまった。
私の周りにもガンの人が増えている。いったいどうなっているのだろう。
あの人もこの人も そしていつか私も・・・ガンになるのだろうか。
街の本屋に救いを求めると すごい量の本。たくさんの情報に混乱し どれも正しく でも一つ一つ今生中にやりおおせない。
・・・・つづく
(月刊致知2004年1月号)