<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>
・・・前回つづき
月光がすべての音を吸い込みつつ 天上を渡ってゆく。この不思議な心の静けさ。胸いっぱいにこの満月の夜の甘い空気を吸い込むと 清々(すがすが)しい凜とした気持ちになってゆく。
森が 木が 草が 虫が 動物たちもしーんとしながらも 月光にざわめく、音を月に吸い取られた世界。こんな夜 東京から この山村に友人も知人も親戚も何もなく移り住んだこの20年間の私の濁りが 月の光で透明になってゆくように感じる。移り過ぎいった刻(とき)に沈む はかなさと安らぎが 悲しさと満足が月の光の中で私を取り囲む。山があり 川があり 枯れススキがあって 蛙と蛇がいる だから山に住める私がある。
さまざまな欲の荷を下してこそ この森に住めることに気づく。
(2003年致知10月号より)