「寄贈」つづき
(12)『名作浪漫文庫・ゲームねじ式』
現在とは違って、まだ誰もがパソコンを持っているとは云いがたい時代だった1989年、このカルト的な作品はツァイト(Zeit)という会社から発売されました。しかもPC-98のみならず、SHARPのX68000というカルトなプラットホームにおいても発売したのです。(ちなみにX68000は当時としては画期的にもCPUにモトローラ68Kを採用していました。)
つげ自身は本作がゲーム化される以前、スーパーマリオブラザーズを息子と一緒によく遊んでいたため、コンピューターゲームには常々興味があったそうです。この事があり、自分の漫画作品のゲーム化を許諾し、つげ自身も制作協力しているのです。
Zeitという社名を見て、あることに気づいた方もおられるかもしれませんが、今は亡き青林堂創設者、長井勝一社長の跡を継いだ二代目代表・山中潤氏がかつて率いていた会社なのです。山中氏は当時、このゲームの中でつげ氏の作品キャラクターに命を吹き込んだのです。大容量主流の現代に比べると、あまりにもささやかな1MBあまりの世界に、壮大な世界を描き込んだのです。膨大なデータを駆使する昨今のゲームと比較すると、見劣りしてしまいますが、しかし、これが1MBあまりでできているのかと考えると、すさまじい熱意を感じないではいられません。つげ作品の世界を忠実に再現し、サウンドと共に妖しい幻想世界を作り出しているのです。そしてつげ義春の世界に内在するイメージを崩すことなく、しかも計算されたアレンジを施した制作スタッフの努力に頭がさがります。
このゲームの設定の中にこんな台詞が登場します。
「言葉を信じるか」
「表現された100の言葉と表現されなかった100億の言葉」
日進月歩の勢いで登場する最新のメディアの中に
あなたはこんな言葉を見つけることができるであろうか。
ストーリーは、作家である主人公「T」が、ふとした事でつげ作品の世界を彷徨い歩き、様々なつげキャラクター(キクチサヨコ(紅い花)、小林チヨジ(もっきり屋の少女)、ほんやら洞のべんさん、元プロレスラーの痴漢男(必殺するめ固め)、「ねじ式」の少年、「ゲンセンカン主人」の登場人物など)と出会う。その中で自分自身とはなにか、という問いを解していくというノベル風アドベンチャーゲームとなっています。
付録として漫画「ねじ式」「紅い花」などが掲載された冊子、店頭などで使われたデモディスクが付いています。なお、PC-9800用よりも後発のX68000用は、そのハードに合わせた作りになっており、グラフィックや音楽、効果音などがよりリアルになっています。また、当時のパソコンゲームとしてはフロッピーディスク3枚組(約3メガバイト強)という大作でした。
・・・苦労して入手したPC-9800用ゲームを、寄贈しました。
(13)畑中純さんの関係資料も寄贈しました。
畑中さんとお会いしたのは2012年4月、河内長野市「南天苑」で作品展をされた時です。河内長野市議が高校の同級生ということで開催されました。その2ヶ月後、6月13日に62歳で亡くなられるとは・・・
【畑中純関係資料】寄贈一覧
1.初エッセイ集「私」文遊社/発行:2008.9※サイン・イラスト入り
2.「猫日和版画館」蒼天社/発行:2008.9
3.春画集「月光」モッツ出版/発行:2001.3/限定番号:0687(全2001部)
※2002年カレンダー付き、特製アルミ缶ケース入り
4.2013年カレンダー※サイン・イラスト入り
5.木版画「風の又三郎」「猫の事務所」
・・・畑中純さんは、つげ義春さんの作品をわざわざ木版画にされるほどの、つげファンだったのです。私は、そんな畑中さんのファンでもあるのです。まして、この世を去られる2ヶ月ほど前にお会いすることができ、不思議な縁を感じます。だから、つげさんの資料といっしょに畑中さんの資料も寄贈させていただきました。多くの方々の参考になるとうれしいです。
・・・待ち望んでいた「芸術新潮」1月号が届きました。
・・・「畑中純」さんのことも語られていました。マンガミュージアムにも、この特集について知らせてありますので、きっとスタッフの方々も読んでおられることでしょう。みなさんも売り切れになる前にぜひ、読んでみてください。そして・・・「なぜ今つげ義春なのか」考えてみてください。