東高野街道(19)
近くにちょっと気になる「廃寺」があったので、立ち寄ってみた。
■春日神社(田辺廃寺跡)
この神社境内には、白鳳時代に創立、天平時代に整備された寺院跡が存在していた。南門から大きく離れて中門があり、さらにその北に東・西両塔が配置され、その北に金堂の諸遺構がたしかめられている。南門、中門、金堂は瓦積基壇の制をとり、金堂には脇侍の台座がなおのこされている。東塔は積基壇、西塔は瓦積基壇であり、対称の妙を示す小規模な三重塔である。この寺院跡は、著名な外来系民族・田辺史(たなべのふひと)家の本貫地に建立されており、白鳳時代から中世までの間法灯を伝えるが、終始その間同氏を背景に盛衰した寺院と考えられ注目される。社殿横にあるコンクリート製の建物に、発掘された様々な遺構が保管されているのだろう。
■河内六寺
奈良時代を知る根本史料の続日本紀は、聖武天皇が天平12(740)年、難波宮行幸の途中で寄った智識寺で盧舎那仏という仏像を拝んで感銘を受け、「朕も造り奉らんと欲した」と記されている。智識寺の仏像の正確な大きさを知る資料はないが、奈良の大仏ができる前までは日本一大きな大仏だったらしい。聖武天皇の参拝はその後も続き、天平勝宝元(749)年には聖武太上天皇と光明皇太后(701~760年)、2人の娘でこの年に即位した孝謙天皇(718~770年)が3人そろって訪れている。さらに、同8(756)年には孝謙天皇が智識寺のすぐ南に造営したとされる行宮で4泊し、智識寺を中心とする「河内六寺」を参拝したという。国家が運営する官寺ならともかく、天皇が民間の寺であった智識寺に行宮まで造って通うなど尋常ではない。
智識寺などの河内六寺があったのは現在の大阪市柏原市の堅下地区。生駒山地と大和川に挟まれたエリアに、南北約3キロにわたって6つの寺が並んでいた。北から三宅寺、大里寺、山下寺、智識寺、家原寺、鳥坂(とさか)寺。いずれも平安時代に廃絶したとされ、跡地はほとんどが宅地になっている。
・・・ということで「廃寺」つながりとして「河内六寺」を追いかけてみよう。
■天湯川田神社
当社の創建由緒・年代等は不明だが、今、当社が鎮座している小丘上には後期古墳(方墳?)があったが、飛鳥時代末期頃に削平して鳥坂寺の塔が建造され、奈良末期には廃絶したという。昭和になっての塔跡の発掘調査などによると、塔が廃絶した跡地に、当社が勧請されたことが確認されたというから(柏原市史・1973)、現神社は8世紀末頃の造営遷座と思われる。当社の創建時期は、当地一帯に居住していた鳥取氏の氏神社とされることから、同氏の氏寺である鳥坂寺の建立とほぼ同時期に寺に近接して創建されたとするならば、飛鳥末期から奈良前期頃の創建と考えられる。また旧鎮座地についても、鳥坂寺に近接してあったと推測され、比叡の森にあったとの伝承もあるが、その場所は不明(式内社調査報告1979)。当社について、大阪府全志(1922)には「延喜式内の神社にして天湯川桁命(アマノユカワタナ)を祀れり。同命は鳥取氏の祖なれば、此の地方に住したる鳥取氏の其の祖を祀りしものならん」とあり、鳥取氏がその祖神・アマノユカワタナ(天湯河板挙・天湯川田奈とも書く)を祀る社である。
■高井田廃寺(鳥坂寺跡)
このうち鳥坂寺跡で実施された発掘調査で7世紀後半のせん仏の破片が出土している。せん仏とは粘土を型押した浮き彫り状の小さな仏像で、聖武天皇が生まれる少し前の7世紀後半に流行した。仏堂内の壁面に無数のせん仏を飾って荘厳な仏教世界を演出したようで、大量のせん仏が出土した奈良県明日香村の川原寺跡は特に有名だ。近畿大学文芸学部の大脇潔教授(考古学)によると、せん仏は飛鳥時代に中国にわたった遣唐僧が持ち帰ったとみられ、中国・西安市で出土したせん仏とまったく同じデザインのせん仏が、川原寺跡や河内六寺の智識寺跡と鳥坂寺跡を含む16の古代寺院跡で見つかっているという。持ち帰った遣唐僧について大脇教授は、河内国丹比郡出身の道昭(629~700年)ではないかと指摘。16の古代寺院跡は道昭の足跡を示している可能性が高いとみる。道昭と河内六寺の縁を初めて明らかにする事実のようである。
続日本紀によると、道昭は孝徳天皇の653年に遣唐使として入唐し、三蔵法師に気に入られながら禅を学び、斉明天皇の660年に帰国。川原寺跡から徒歩で10分ほど北にある国内最古の本格的寺院、飛鳥寺の東南隅の禅院で禅を伝えたという。その後、天下を周遊して路傍に井戸を掘り、各地の湊や渡し場に船を備え、川に橋をかけたといい、続日本紀は京都府宇治市の宇治橋は道昭が造ったとする。奈良時代以降になると、空海など社会整備を行いながら周遊する僧が登場するが、その走りといえるのが道昭なのだ。道昭が天下周遊をした7世紀後半は、河内六寺の創建やせん仏の時期とまさに一致している。
・・・社会整備を行いながら周遊する僧、かっこいいですよね。