気まぐれ(6)
■ソニーロリンズとゴッホ
音楽にまったく縁がなかった人間が、ある日突然ジャズのとりこになる。三ヶ月で三百枚ものレコードを買い、毎晩、夜通し十時間も聴いていた。ジョン・コルトレーン、セロニアス・モンク、ソニー・ロリンズ、チャーリー・パーカーなどなど・・・。
「・・・私はモダン・ジャズの巨人たちのシリアスな姿勢に打たれ、思ってもみなかったモダン・ジャズの世界の美しさに息を呑む思いがする・・・どうしてあんな音が出せるのか。心情と表現が完全に一つになって間然とするところがない・・・時代は変わる。変っていく時代の中で、自らもどう変わって行くかが芸術の課題なのだ。その課題とシリアスに取り組んでいくことで、新しい美が生まれる。新しい美を追い求めて格闘するジャズの巨人たちに、深く心を動かされていった。」
80年代半ば、洲之内さんは、「寝ても覚めてもジャズのことばかり考えている」ようになってしまい、何を見てもジャズに見えるようになる。半年間、集中してレコードを聴く。その結果、ジャズは、「彼の感覚の相当深いところまで浸透し」、絵の見方にまで影響を与えるようになる。
「ゴッホをソニー・ロリンズに結び付けたりするのは気まぐれが過ぎるかもしれない。だが、いうなればこれは私の即興演奏である。・・・モダン・ジャズが私にさせる業だろう・・・私は、ソニー・ロリンズでゴッホが分かり、ゴッホでソニー・ロリンズが分かるような気がするのだ。」とまで言うようになる。