大正ロマン(9)
■鰭崎英朋(1881~1968)ひれざきえいほう
明治~昭和時代前期の挿絵画家。明治14年8月25日生まれ。東京出身。名は太郎。右田年英、川端玉章にまなび、明治34年鏑木清方らと烏合会を結成。美人画、相撲絵を得意とし、広津柳浪「河内屋」、柳川春葉「生さぬ仲」など新聞や雑誌、単行本の挿絵をかいた。昭和43年11月22日死去。87歳。
松本品子著『挿絵画家英朋/鰭崎英朋伝』(スカイドア)の内容紹介には、「人気が出、飽きられ、忘れられた。しかし、挿絵画家にとって毎日が展覧会だった。明治挿絵魂今蘇る」とある。竹久夢二や鏑木清方、高畠華宵らと並び、大正ロマンを髣髴とさせる美人画(挿画)を描いた一人でもある。
鰭崎英朋の挿絵というと、まず『続風流線』の口絵が思い出される。鏡花の特集を組む雑誌にはたいてい載っており、笠原伸夫『評伝泉鏡花』の表紙などにも使われている。一度見ると忘れられない、強烈な印象の絵である。この小説の前編にあたる『風流線』の口絵は、英朋ではなく、鏑木清方が描いている。口絵を描く画家が、同じ小説の前後編で違うのは少し不思議な感じもするが、それはある意味とても贅沢なことである。
■泉鏡花(1873年(明治6年)11月4日~1939年(昭和14年)9月7日)
明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家。戯曲や俳句も手がけた。本名、鏡太郎。金沢市下新町生れ。尾崎紅葉に師事した。『夜行巡査』『外科室』で評価を得、『高野聖』で人気作家になる。江戸文芸の影響を深くうけた怪奇趣味と特有のロマンティシズムで知られる。また近代における幻想文学の先駆者としても評価される。他の主要作品に『照葉狂言』、『婦系図』、『歌行燈』などがある。
●鏡花本/美しく、幻想的な物語で知られ、華麗で視覚的な独特の文体は、当代を代表する画家を魅了した。そうした画家たちにより贅を尽くした装釘がなされた鏡花の著書は「鏡花本」と呼ばれ、美術作品としても高い評価を得ている。