4ヶ月遅れの・・・おめでとう
■4ヵ月遅れ笑顔の「春」福島・広野小/いわきで卒業式
東日本大震災と福島第1原発事故の影響で延期されていた福島県広野町の広野小の卒業式が7月23日、いわき市内に移転した町役場で行われた。県内外の避難先から集まった卒業生は、友人との久しぶりの再会に笑顔を見せていた。卒業生59人のうちの56人と保護者ら約240人が出席した。卒業証書の授与後、佐々木茂美校長(57)は「困難に負けず、希望を持ち続けて大きな花を咲かせてほしい」と励ました。
卒業生は一人ずつ、「早くみんなと同じ学校に通いたい」「埼玉の中学校で広野魂を見せたい」などと思いを語った。札幌市から来た薄葉円香さん(12)は「男の子は声が変わっていて驚いた」と再会を喜んでいた。広野小の卒業式は3月23日に行われる予定だったが、震災翌日の12日に大半の町民が町外に避難していた。町全域が今も、緊急時避難準備区域になっている。町教委によると、卒業生はいわき市内の13中学校を含め、北海道から岐阜県にかけての計30中学校に通っているという。
<教師、訪問活動で心ケア>
東日本大震災が起きた時点で311人いた広野小の児童の避難先は、全国各地に分散。まとまって避難した一部の地域を除き、ほとんどは1人か数人程度で避難先近くの学校に通った。慣れない環境で戸惑う子どもを励まそうと、多くの先生は当初は避難所へ、新学期には避難先の学校へと訪問活動を続けた。「最初のころは、ただ抱きしめるだけだったり、子どもが『わーっ』と泣いてしまったりするだけのこともあった」と振り返るのは、教務主任の根本広子教諭(48)。「とにかく、目の前の子どもの気持ちを受け止めることに徹した」と言う。教師の活動拠点となったのは、いわき市の福島高専。3月27日から臨時事務室が置かれている。当初は数人一組で避難所を回り、子どもの所在を確かめた。携帯電話での連絡も含め、全児童の無事を確認できたのは震災から約3週間後だった。1年の担任だった矢内和子教諭(57)は新学期に入ってから、いわきを中心に郡山、白河、須賀川市などの学校を何度も訪ね歩いた。児童の気持ちを尊重するため、あれこれ問いただしはせず、「最近どうかな?」といった軽い問いかけを心掛けた。春先は、見知らぬ土地での学校生活に不安そうな表情を見せる子どももいたが、徐々に落ち着いた。最近、気になっているのは「せきを切ったように近況を話してくれる」子どもの増加。自らも仮住まいの矢内教諭は「帰る家がないとか、原発事故で避難を経験した気持ちは、簡単に共有できるものではない。ため込んだ感情を子どもなりに吐き出しているのではないか」と推測する。佐々木茂美校長は訪問と並行し、県外避難の児童にも届く学校便り『輝く子』の発行に力を入れた。県外で訪問できたのは、災害時応援協定で避難先となった埼玉県三郷市だけ。「せめて近況だけでも伝えたい」と願ったからだ。本年度の在籍児童289人の避難先は、県内が46校191人、県外が21都道府県の87校98人。佐々木校長は「各地で温かく受け入れてくれて感謝しているが、離れていても子どもたちを支え、絆を保ちたい」と話す。
■4カ月遅れ「おめでとう」/福島・楢葉の3校園が卒業式
東京電力福島第1原発事故の影響で順延となっていた福島県楢葉町の楢葉北小学校と楢葉南小学校の卒業式と、町立あおぞらこども園の卒園式が7月17日、住民の集団移転先となっている同県会津美里町で行われた。大部分が警戒区域に入っている楢葉町では、住民は避難生活を強いられている。卒業・卒園式ができないままになっていたため、3連休を利用して実施した。小学校は対象69人中3人が欠席、こども園は68人中6人が欠席したが、約4カ月ぶりの再会を喜ぶ子供たちの姿もあった。避難先の群馬県高崎市から出席した楢葉北小の卒業生、佐藤凌(ひむろ)君(13)は「久しぶりに友達の元気な顔を見ることができてうれしかった」と話した。
■津波で犠牲の長男に代わり父に卒業証書/南相馬・大甕小
福島第1原発事故による「緊急時避難準備区域」内の福島県南相馬市大甕小が7月24日、4カ月遅れの卒業式を開いた。東日本大震災の津波で亡くなった小西竣君(12)の父康弘さん(38)は、遺影を携えて式に出席し、亡き長男の代わりに卒業証書を受け取った。卒業式は、大甕小が間借りする同市鹿島区の八沢小体育館で行われた。卒業生は竣君を含め35人。半数以上が福島県外に避難していたが、33人が避難先から駆け付けて参加した。平間勝成校長は「震災で皆、全国に散り散りになった。つらいときには大甕小のことを思い出し、他人を思いやれる大人になってください」と励ました。卒業証書を手にした康弘さんは「校長先生に聞いたら、竣の将来の夢は『人間国宝』だったんだって。何考えてるんだよ、あいつ…」と涙を浮かべた。「本当につらい。でも、これで父親としての役目を果たせました」と話した。
■4カ月半遅れの卒業式/石巻市立北上中31日に/宮城
東日本大震災の大津波で学区域が甚大な被害を受け卒業式を延期した石巻市立北上中学校(同市北上町十三浜)は7月31日午前10時から同校で卒業式を行う。畠山卓也校長は「苦難にめげずに生きる卒業生一人一人の笑顔を確かめたい」と、その日を待ち望む。同中の今春の卒業生は40人。高台にある体育館で3月12日に行うはずだった卒業式の準備中に巨大地震が襲った。校舎の一部が損壊しライフラインが止まったが、津波被害を免れ犠牲になった卒業生はいなかった。全員進学を果たしたという。卒業生は家族とともに約10カ所の避難所に分散し学校側との連絡もつかない状況で、学校側は卒業式を延期せざるを得なかった。畠山校長は「避難所を回って卒業証書をただ渡すよりも後日、一堂に会して心のこもった卒業式を」と考えたと説明する。式では冒頭、出席者全員で黙とうをささげ震災犠牲者の冥福を祈る。津波の犠牲になった当時の男性PTA会長が用意した祝辞が残っており、男性の妻が代読する。学区域の仮設住宅で暮らす住民を来賓として招き、地域ぐるみで卒業を祝う。畠山校長は「しっかり勉強し力を蓄えて古里の復興に尽くしてほしいと、はなむけの言葉を贈りたい」と話している。