マネキン造形作家(3)
■清水凱子
処女作を発表したのは1962年(昭和37年)でした。当時マネキン作家は男性であることが、半ば常識化していた状況下で、清水さんの存在は異色でした。しかも処女作が大ヒットとなったPWH271。翌年にも引き続きヒット作PWH298を発表しました。清水さんは最初のマネキンの原型を製作してから30余年間の中で数々のヒット作を世に送り出しました。清水さんは、いつの時代でも、その時代を主体的に生きるファッショナブルな人間像を、女性の感性で作り出しました。1975年代後半は、実在のモデルの顔をFCR技法で型取してつくるスーパーリアルマネキンの時代でしたが、清水さんはこうした新しい手法においても、自分のスタイルを貫き通し、スーパーリアルならではの実在感とマネキン美を表しました。1977年のティーンズマネキン「アミカル」。1978年の「ボーベル」。1979年の「エラン」と3年連続でヒット作を発表しました。
1985年の加野正浩作「レイ」の大ヒットは、清水さんに大きな刺激を与えました。しばらくオリジナルな原型製作から遠ざかっていましたが、「もう一度取り組んでみたい」と、清水さんの心に創作意欲が湧きました。そこで本当に久方ぶりに、すべてイメージで婦人マネキンを作ることにチャレンジしました。その時の本人の緊張感は、想像を絶するものがあったと思います。七彩上町アトリエの回転台に立つ、完成間近の粘土原型を見た瞬間、自分なりのマネキンを作りたいとの清水さんの激しい思いが伝わってきました。粘土原型を撮影し、その写真を示しながら企画会議に提案しました。そして「ぜひとも発表すべき」と上町アトリエで原型を見たメンバーは力説しました。こうして1986年にデビューしたのが「グレース1・2・3・4」です。清水さんは翌年の1987年に「グレース」の弟と称し「ジオ1・2・3・4」」を発表しました。そして1988年にはその妹と称して「リサ1・2・3・4・5」を発表したのです。この3つのシリーズのマネキンのキャラクターは「血縁関係」という点が面白く、実際に「グレース」の顔から男の「ジオ」の顔を作ったという発想は実にユニークです。「リサ」も「グレース」の妹らしく、気品の中にチャーミングさを漂わせるティーンズマネキンです。その後清水さんは1991年に「エリサ・エリザ」。1992年に「マヤ」。このマネキンは、身体造形に対する厳しい視線を感じさせるマネキンとして、先頃開催された「身体の夢」展に採用されました。翌年の1993年に「モカ・モア」を発表。何れも90年代を飾るヒットマネキンであり、8年を経過した今日でも、最新のファッションを身に付けた「彼女たち」と出会うことが出来ます。現在七彩の東京アトリエには、2名の女性のマネキン作家ががんばっています。一人は今年チャーミングなキャラクターマネキン「MINT」を発表した山下美代子さん。もう一人はパワフルでセクシーな女性をイメージしたリアルマネキン「KATE」を発表した横山八千代さん。どちらも評判がとても良くて、これからが楽しみです。マネキン作りは、女性の仕事としては想像以上に過酷ですが、清水さんが長年築いてこられた、女性の感性が発揮されるマネキン作りを是非とも継承して頂きたいものです。
■山口小夜子マネキン
ロンドン・アデルー社が制作、国内では吉忠マネキンの取り扱いとなっている。
■山口小夜子
横浜出身、杉野ドレスメーカー学院卒業、1970年以降ファッションモデルとして、パリ及びニューヨークコレクションに参加し、時代を象徴する数多くのデザイナーのコレクションに出演する。また、国内外の写真家やメーキャップアーティスト達と、数々のファッション誌のグラビアを飾る。 1973年より 資生堂の広告モデルとなる。 1977年 ニューズウィーク誌(米)より「世界の6人のトップモデル」の1人に選ばれ、「SAYOKOマネキン」が世界各国のショーウィンドウを飾る。 1983年 著書「小夜子の魅力学」出版。ファッション・エディターズ・クラブ(FEC)賞受賞。 1984年 毎日ファッション大賞特別賞受賞。ファッションモデルと同時に、演劇、映画、コンテンポラリーダンスなど国内外の舞台活動に多数参加。衣装デザインを手掛けたオペラ「三人姉妹」(フランス・リヨン国立歌劇場)は、98年度フランス批評家協会最優秀作品賞を受賞。雑誌、広告、舞台など出演作品において衣裳スタイリング、コーディネイトを手掛けることも多く、SAYOKOブランドの展開や衣装デザインなども行う。 2001年鈴木清順監督映画「ピストルオペラ」の公開、衣裳・ヘアメイクデザインを手掛けたオペラ「三人姉妹」のヨーロッパ再演等。iモード「The END Channel」にて毎週エッセイを連載。
■山口小夜子さん死去/2007年8月14日
日本人モデルの草分けとして、欧米のファッションショーなどで広く活躍した山口小夜子(Sayoko Yamaguchi、57)さんが14日、急性肺炎で亡くなった。所属事務所によると、すでに葬儀は親族のみで執り行われ、後日「お別れの会」が開かれた。
■1977年ステーリィ-・ダン「aja」
ジャケットを飾る山口小夜子が素晴らしい。ステーリィ-・ダンの音作りは、自分達の頭の中に描いた音楽を、多くの一流スタジオミュージシャンを使って音の断片を作り、ステンドグラスの如く埋め込んでいくといった、室内工芸的な感じが特徴。例えばギターのワンフレーズを決めるにも何人ものミュージシャンを使い、結局その中の一人のごく短いフレーズしか使わないといった非常に贅沢な音作りを繰り返し、自分たちのイメージを正確に形にしていく。すべての音楽を消化した様な洗練された音楽性は、口当たりの良いスパークリング・ワインを飲んでいる感じと似ている。
資生堂のCMより・・・
SAVの茶室「あまみ草庵」も、こういう人が似合うようなそんな茶室に、再度整備しようかなあ・・・って思う。