一方「まよ子」は、
「布が舞ってるみたいだよ」
と安子に言われた、その言葉が頭にこびりついて離れなかった。
「布が舞う・・・」
染場にもどって、ふと窓に眼をやると、冷たい風にカーテンが舞っていた。
いろんな「舞う」が、頭を巡った。
「そうだ、アンドリュー・ワイエスの画集がどこかにあったはずだわ」
それは以前、若いスタッフが展覧会のお土産だと置いていってくれたものだった。
「ワイエスの絵には“風”があるわ」
「しかも、ほとんどが“横顔”だわ」
“風”そして“横顔”何かがつながっているような気がして、「まよ子」は手当たり次第に資料や本を調べ始めた。
夢中になっていると、近くのカフェから何故か懐かしい曲が流れてきた。
「えっと、この曲・・・ボブ・ディランの・・・」
いつになったら武器は廃止されるのか
いつになったら為政者たちは人々の泣き声が聞こえるのか
いつになったら一人前と認められるのか
いつになったら山は海に流されるのか
「答えは・・・風に流されている。Blowin’in the Wind」
「懐かしいと言えば、“風と共に去りぬ”っていう映画もあったなあ。私が生まれるずっと前だけど・・・」
「学校の国語で“風の又三郎”を習った・・・ええと、宮沢賢治だった」
「宮沢と言えば・・・THE BOOMの宮沢和史さん、風になりたい」
「まよ子」は、“風”を楽しんでいた。風に身をまかせ、風に同化することによって、自然と答えが見つかりそうな・・・手応えを感じていた。
・・・つづく