「お腹もふくれたし、新しい目標もできたし・・・」
「まよ子」はうきうきと資料整理を続けた。父も、そんな様子をうれしく見守った。
突然、作業をしていた父の手がとまった。
「お父さん、お父さん・・・」
返事はない。そして父は、段ボール箱の一番底から、厳重に包まれた書類を取り出した。「まよ子」は覗き込んだ。
「N・A・P・O・L・・・ナポレオン?」
「そう、ナポレオンだ」
「どうして、古代エジプトと関係あるの」
「ナポレオンも、エジプトを調査していたんだ」
「まよ子」は知らなかった。どうしてナポレオンがエジプトを調べる必要があったのか、そして何を発見したのか、発見できなかったのかもしれない、ひょっとしたら、たっちゃんは・・・「まよ子」は頭がクラクラしてきた。
「す、すごい」
父の大きな声で我にかえった「まよ子」は、父が床に並べた資料を凝視した。
「ルビンの壺よね、お父さん」
「そうだ、ルビンの壺だ」
その夜、父からナポレオンが発見したロゼッタ・ストーンについての話などを聞くことができた。「まよ子」はベッドに入ってからも、興奮して眠れなかった。
「たっちゃんは、ナポレオンが発見したルビンの壺にたどりついた。ナポレオンは“ルビンの壺”を知らなかったはずだから・・・」
「でも、たっちゃんはこの壺の意味を知っていたはずだから・・・」
「ナポレオンも気付かなかった何かを発見したに違いない」
「きっと、ぜったいに、間違いない」
静かにベッドを降りると、書斎に向かった。まだ電気がついている。
「お父さん?」
「なんだ、よっこか?」
「だろうな、眠れないよな」
父も同じだった。二人は、黙々と段ボール箱の資料を探った。
「ナイル川って、2つあるんだね」
「そうだよ、知らなかったのかい」
しばらくしてから
「よっこ、ひょっとしたらナイル川・・・」
「いや、エジプトすべてが“ルビン”の壺かもしれない」
あまりにも大きなスケールで、「まよ子」は唖然とするしかなかった。その夜は一睡もせず、明け方近くまで父から青ナイル・白ナイルのこと、太陽神のことなどを聞かされた。「まよ子」は、正直、もうついていけそうにないと感じた。それは、睡魔に負けたからではなく、心からそう思った。そして、「染たつ」資料館こそが自分の仕事であると、より鮮明になったのである。
・・・つづく
「七宝編」ようやく編みあがりました。結構、時間がかかり、手にも豆ができるほどです。
とりあえず、キャンバス置場前にぶらさげました。