まよ子(17) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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「孝子、わしはそう長くないかもしれん」

「そんなこと・・・」

「世間では“夫婦染め”と呼ばれているらしいが、たっちゃんとはどうなんだい」

「たっちゃんは染物に一生懸命、私は機織に一生懸命」

「わかったわかった、そろそろお父さんを安心させてくれないか」



孝子はいずれそうなるだろうことをうすうす感じてはいたが、これまでの破談のことがあり、なかなかその想いを達人に伝えることはできなかった。

与三郎は、達人を枕元に呼んだ。



「たっちゃん、染物はうまくいってるかね」

「はい、でもまだまだ思うような色が出せなくて」

「それでいい、納得できるまでやることだ」

「私を拾っていただいた上、そのようにおっしゃってくださるなんて」

「うん、そこで頼みがある、聞いてくれるかね」


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-のれん

そして達人に、「安斎」の暖簾と孝子がたくされたのである。


与三郎は、孫の顔を見ることなく他界した。店のきりもりと職人としての仕事はめまぐるしく、月日はあっという間に流れた。当初の繁盛は陰を潜め、職人たちも去っていった。細々と、昔ながらの注文にあわせて染め続けていた。

達人は、これまで染物を納めてきた料亭に出向くことが多くなり、帰らない日々が続くようになった。思うような染めの注文が来なくなり、その苛立ちを紛らわすために、これまでに染めた暖簾や幟などのある店を転々とする。そのことを孝子は知っていた。



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-ごふく2

ある日、めずらしく達人は仕事場にこもっていた。孝子にとって、一番うれしい光景でもあった。

「いい色出そうですか」


「今日、京都の博物館でとんでもないものを見てきた」


それは、古代エジプトの一枚の布であった。日本の「藍」にそっくりであったらしい。達人の眼に狂いはなかった。これまで、様々な染色を手がけてきた達人であったが、どちらかというと呉服屋や料亭からの華やかなものが多く、素朴な藍染からは遠ざかっていた。


「もう一度、はじめからやり直す」


達人は、言い放った。


・・・つづく



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-ここまで1

「七宝編み」ここまで編みました。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-きゅ

キュビスム風立体、前回の作品は発泡スチロールの破片を組み合わせましたが、これはいうなれば「一木造り」です。