レストランからの帰り際、マスターが「まよ子」と安子に
「たっちゃんの書斎を片付けるらしいね、だったらキャパの写真集や本が数冊あるはずだよ」
「本当?」
「おじさんが持っていたのをたっちゃんにあげたんだよ」
「あら山野さん、あれは借りた本だから返すようにって父が」
「いやいや、私にはもう必要ないんですよ。だったらこのお二人にあらためてプレゼントしますから、よろしくお願いします」
安子を車で駅まで送り、手をふりながら
「安子、こんどの日曜日わかってるわね。それと、そのカメラ持ってきてね」
車を運転しながら、めずらしく父は饒舌であった。
「安子さんのお父さんは、社内で木場という名前からキャバって呼ばれていてね。本人もまんざらではなかったみたいで、キャパみたいなカメラマンになりたいって」
「だから、家族を捨てて外国の支社に行ったってわけ?」
「捨てたんじゃない、結果としてそうなってしまったんだよ」
「そうかなあ、でも離婚してからも手紙は送ってきたって言ってたよね」
「そうさ、彼は家族と同じくらいキャパを愛してしまったんだ」
母が二人の会話にわって入った。
「私ね、そんな男の人がとってもうらやましいの。木場さんが送ってきたというキャパ最後の日、最後の場所の写真。涙がでてきちゃった」
「安子も、安子のお母さんも、きっと許してるよね」
家に到着するまで、静かにそれぞれが思いにふけっていた。
就寝を前に、「まよ子」から母に声をかけた。
「お母さん、こんどの日曜日、よろしくね」
「こちらこそ、それより学校にはきちんと行ってちょうだいね」
「はいはい、心を入れ替えます、おやすみ」
ベッドにもぐりこんだものの、すぐには眠れそうになかった。本当に今日はいろいろあって、これまでのだらしない日々が悔やまれてならない。まずは、真剣に写真部してみようと決意した。
「おいおい見てみろよ、よっこが珍しく写真してるぜ」
写真部の男子部員たちが、ひやかすように「まよ子」の周囲に集まってきた。
「よし、おまえたち、これから私が写真を撮ってやるから、そこに整列しなさい」
男子たちはおもしろがって、それぞれがポーズをとった。
「そうじゃない。私は顔しか写さない。しかも、横顔だけだ」
その気迫に押されて、全員横を向いて整列した。
「よっこ、何してるのよ」
そこに部長の安子がやってきた。
「助かった、部長助けてくださいよ」
と、男子部員は散り散りに逃げていった。
「冗談よ、日曜はどもありがと」
「こちらこそ、また今度の日曜よろしくね」
こんなに一週間を長く感じたことはなかった。しかし、こんなに充実した学校生活もはじめてのことだった。
日曜の朝、予定よりも早く安子は玄関のベルを鳴らした。
「ちょっと早かったかな」
「なんのなんの、もうたっちゃんの書斎片付け始めてるのよ」
今日は会社の都合で、父はでかけていた。女三人の小池家である。
・・・つづく
藍の花が咲き始めたので、大きな葉だけ刈り取りました。3番刈りです。藍の成分は少なくなっているかもしれませんが・・・
陽射しが弱かったのか、十分に乾燥していません。夜間は作業場に広げて少しでも早く乾燥するように。