父・小池修は、新聞社に勤めていたので、急に身を乗り出した。
「フリーのカメラマン?」
「いえ、読々新聞に所属していたようですが・・・」
「安達というカメラマンは居たかなあ・・・」
安子はこまった表情で、しかしきっぱりと言い放った。
「父は、安達ではありません。木場浩一と言います」
聞いてはならないことを聞いてしまったことを、テーブル全員が瞬時に理解した。
「ごめん、事情があるようだね」
「いえ、いいんです。私が小学校の時、両親は離婚しました」
「そうか、それでお父さんのことは・・・」
「今でも愛しています。そして、いつも父のカメラを肌身離さず持っています」
そう言うと、バッグから1台の古いカメラを取り出した。
「それ、安子ときどき使ってるやつじゃないの」
「そうよ、今までだまっていてごめんなさい」
「だまっていたなんて、私そんな古いカメラじゃダメでしょなんて、私の方こそあやまらなきゃ」
そんな二人の会話も耳に入らない様子で、父は突然大声でマスターを呼んだ。
「マスター、ちょっと来てくれ」
あわてて厨房からマスターが飛び出してきた。
「料理に何か・・・」
「違うよ、このカメラ見てくれよ」
マスターは眼を丸くした。
「どうしたんだよ、このカメラ」
そして、マスターはこのカメラがロバート・キャパも使用していたものであることをみんなに語ってきかせた。
「そんなすごいカメラだったんですか」
「そうだよ、おじさんも実物見るのははじめてで、感動したなあ」
安子は、本当にうれしい顔で、両親のこと離婚のことを静かに語り始めた。
全員そんな安子をとても身近に感じ、一つの家族のように。
・・・つづく
SAVの藍畑に・・・
藍の花のようです。もう、そんな季節になったんですねえ・・・