まよ子(11) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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レストランの看板が見えてきて、安子が叫んだ。



「ネフェ・・・って、これじゃないの」

「思い出したわ、これよこれ」

「写真展にあったでしょ、エジプトの壁画」

「そうか、でもどうして名前知ってたの」



すっかり夢中になっている二人に、両親はあきれてしまった。



「さあ、降りて降りて」

「このレストラン、見覚えあるなあ」

「あたりまえでしょ、おじいちゃんのお友達の店よ」

「それじゃ、まよ子は何度も来たってわけ」

「そう、忘れたなんて言ったらマスターにしかられるわよ」



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-れすと1

レストランの入口で、「まよ子」は大声をあげた。



「マスター」



早い時間帯のおかげで、他にお客さんもおらず幸いであった。



「ははは、よっこ久しぶりだねえ」



マスターは待ってくれていたのだ。

「まよ子」は思わず駆け寄りとびついた。

その勢いにマスターは吹き飛ばされそうになり



「おいおい、年寄りはいたわるもんだよ」

「ご、ごめんなさい」



頬を赤らめて笑った、みんな笑った。



「さてさて、お席はどうしましょうか」

「テーブル席で結構よ」

「しかし、よっこはあちらの方がいいのでは?」



そこは懐かしい、絨毯が敷き詰められゆったりとした空間。



「よっこは、よくあそこで昼寝をしていたよね、覚えてる?」

「そりゃ、昨日のことのように・・・」

と言って、母の方を見てペロリと舌を出した。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-まいるす

「あらごめんなさい、安子さん」



楽しそうな家族の様子、安子は少しうらやましかった。



「私、こういうところ初めてなもので・・・」

「そうよね、エジプト料理なんて」

「でもね、ここは亡くなった祖父のお友達の店なの」

「そうよ安子、ぜんぜん遠慮なんかいらないんだから」



笑いながらマスターは「まよ子」の横顔をしげしげと見た。



「よっこ、大きくなったなあ」

「へへへ、もう高校2年生」

「お友達は・・・」

「先輩、写真部の部長さん」

「安達安子と言います。」

「ほう、写真をやっているんだ」

「さっきね、コルベールって人の写真展見てきたのよ」

「くわしく聴きたいもんだね。でも、先にお料理を聞いておかなきゃね」

「私、まだお腹すいてないしまず珈琲、安子もそうしようよ」

「じゃ、みんなまず飲み物をもらおう」



「マスター、今日のおすすめ料理は何なの」

「魚でよかったら、新鮮なナイル・パーチが入ってるよ」

「よし、それにしよう」



珈琲が運ばれてきた。



「見て見て、カップもスプーンもエジプト」



安子はなんだか落ち着かない。すべてが珍しく、キョロキョロしている。



さわやかなジャスミンの香りが漂い、心地よいジャズが流れる。



「ああ、最高の気分」



「まよ子」は、大きく深呼吸をした。


・・・つづく