まよ子(10) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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「まよ子」は、安子が手を離したことにも気付かず、一枚の写真の前で立ち尽くしていた。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-えじぷ1

「よっこ、よっこ」


周囲を気遣って、耳元で安子が呼びかけても、まったく応答がない。まばたきもせず、かれこれ10分は写真を凝視している。安子は、そんな「まよ子」の横顔をあらためて眺め、あることに気がついた。


「クレオパトラ・・・」


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Jean-Leon-Gerome



そんなつぶやきが聞こえたのか、ようやく「まよ子」は安子の方に向き直った。


「ネフェルタリ・・・」


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安子は仰天した。


「な、なによそれ」


返事はなかった。とにかく安子は、「まよ子」の手を引っ張って会場の外に出る。


ベンチに腰かけて


「よっこ、いったいどうしたっていうのよ」

「えっ何が?」

「何がって、ぜんぜん返事もしないんだから」

「そうかしら」


安子はあきれてしまった。


「それより、ネフェ・・・って何よ」

「ネフェルタリ、私もよくわからないの」

「それっておかしくない?」

「おかしいわよ、でもあの写真見てたら、そう思ったのよね」

「まあいいわ、でもそれって人の名前かなあ」


これ以上話をしても無駄だろうと、いつもの安子にもどって話題を変えた。「まよ子」がこの写真展を気に入ってくれたら、それだけで安子は満足であった。


二人は、両親と待ち合わせをしている駅に向かう。いやがる安子を説得して、両親の車に乗り込みちょっと早い夕食にでかける。


「ずうずうしくてすみません」

「とんでもないわ、まよ子の面倒見るのたいへんだったでしょ」

「お母さん、それどういう意味よ」

「だってそうじゃない、いつも自分勝手でしょ」

「お母さんに言われたくないなあ」

「こらこら二人とも、安子さんがこまってるよ」


にぎやかな車内であった。


「まよ子」は心の中で


「ネフェルティティ・・・」とつぶやいた。


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・・・つづく