まよ子(9) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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写真部の連中とは“杜の宮”駅で待ち合わせをしているので、「まよ子」だけが車から降りた。

「安子、待たせた?」

返事がない。きっと怒っているのだ。

「他のメンバーは、先に行ったの?」

「みんなドタキャン」

「まよ子」は自分に怒っているのではないと知り、急に陽気になった。

「いいじゃない。先輩と二人っきりというのもうれしいなあ」

急に安子の眼が光った。「まよ子」は、しまったと思ったが、時すでに遅かった。

「そうだなあ、たまには二人もいいなあ」

安子の中の男性が眼をさましてしまった。しばらく、それに合わせるのが得策であることを多くの部員は知っていた。

「じゃあ行くか、迷子になるなよ」

そう言うと、「まよ子」の手を強く握って足早に歩き出した。とにかく、今は従うしかない。そして、できるだけ女性らしく

「ここからずいぶん遠いのかしら」

「心配するな、疲れたらオンブしてやるよ」

とんでもなかった。そんなことされたら、二度と外出できないくらい恥ずかしい。

「うれしいわ、でもがんばる」

ところが、行けども行けども美術館らしい建物は見えてこない。不安になった。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「コンテナばかりだけど、美術館はどこなのかしら」


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安子は大きな声で笑い出す。鳥肌が立った。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「ここだよ、君には見えないのかい」

安子の示す方向を見て、本当に鳥肌が立った。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「まよ子」は写真部に所属しながら、どこか写真を馬鹿にしていた。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

ただ好きなもの、きれいなものを見つけてシャッターを押せば、勝手にカメラが写してくれる。絵画に比べれば、簡単なものだと


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ところが、今眼の前にある「写真」は「写真」ではなかった。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

広い会場を無言でゆっくりと歩く。安子と手をつないでいることも忘れて。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「彫刻の森美術館」ピカソ館での、祖父との会話を思い出していた。

「でも写真はね、事実を写すけど真実はわからない」

「まよ子は、むずかしいことわからない。けど、この写真は本当よ」

そう思える「写真」に久しぶり出会えたことに興奮し、手が汗ばんだ。

そして、安子の方から手を離してくれた。・・・つづく