写真部の連中とは“杜の宮”駅で待ち合わせをしているので、「まよ子」だけが車から降りた。
「安子、待たせた?」
返事がない。きっと怒っているのだ。
「他のメンバーは、先に行ったの?」
「みんなドタキャン」
「まよ子」は自分に怒っているのではないと知り、急に陽気になった。
「いいじゃない。先輩と二人っきりというのもうれしいなあ」
急に安子の眼が光った。「まよ子」は、しまったと思ったが、時すでに遅かった。
「そうだなあ、たまには二人もいいなあ」
安子の中の男性が眼をさましてしまった。しばらく、それに合わせるのが得策であることを多くの部員は知っていた。
「じゃあ行くか、迷子になるなよ」
そう言うと、「まよ子」の手を強く握って足早に歩き出した。とにかく、今は従うしかない。そして、できるだけ女性らしく
「ここからずいぶん遠いのかしら」
「心配するな、疲れたらオンブしてやるよ」
とんでもなかった。そんなことされたら、二度と外出できないくらい恥ずかしい。
「うれしいわ、でもがんばる」
ところが、行けども行けども美術館らしい建物は見えてこない。不安になった。
「コンテナばかりだけど、美術館はどこなのかしら」
安子は大きな声で笑い出す。鳥肌が立った。
「ここだよ、君には見えないのかい」
安子の示す方向を見て、本当に鳥肌が立った。
「まよ子」は写真部に所属しながら、どこか写真を馬鹿にしていた。
ただ好きなもの、きれいなものを見つけてシャッターを押せば、勝手にカメラが写してくれる。絵画に比べれば、簡単なものだと
ところが、今眼の前にある「写真」は「写真」ではなかった。
広い会場を無言でゆっくりと歩く。安子と手をつないでいることも忘れて。
「彫刻の森美術館」ピカソ館での、祖父との会話を思い出していた。
「でも写真はね、事実を写すけど真実はわからない」
「まよ子は、むずかしいことわからない。けど、この写真は本当よ」
そう思える「写真」に久しぶり出会えたことに興奮し、手が汗ばんだ。
そして、安子の方から手を離してくれた。・・・つづく