まよ子(8) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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居間の電話が鳴る。


「もしもし、小池ですが」

「よっこ、学校休んで何してるのよ」

「しんどいの」

「そんなの仮病じゃん」

「たまには女の子なの」

「それよりさあ、こんどの日曜どうすんのさ」

「どうするって」

「写真部の鑑賞会わすれてんの」

「行くわよ、行く行く」

「もう、今日締め切りだったんだから、わすれないでよ」


そう言うと、けたたましく電話が切れた。


安子は高校3年生、写真部の部長をしてくれている。私立よこがわ学院に入学したのは、中3の見学会で運動場のすみっこに土俵を見つけたから。でも、入学してからわかったのだが、5年前に廃部になっていた。相撲部のマネージャーでもして楽しく高校生活をと考えていた「まよ子」に、最初に声をかけてくれたのが写真部の安子であった。



「きみの横顔、ぜひ撮らせてほしいんだけど」



とても男性的な迫り方で、一方的にスタジオに連れて行かれ、何十枚もの横顔を撮られてしまった。そして、現像やら焼付けやらと言われるままに手伝わされて、そのまま写真部に居ついてしまったというのが、ことの顛末である。



ケイタイを確かめると、安子からのメールの山であった。そのメールでやっと、この日曜の鑑賞会のことを思い出した。



「コルベールなんて写真家知らないなあ、でも気分転換」



母が帰宅した。なんだか気まずい。めずらしく「まよ子」から切り出した。

「お母さん、何よあのサンドイッチ」

「遅くまで寝てるんだから、目覚ましがわりよ」

「それはどうも、大きなお世話です」

久しぶりに母と笑った。


テレビから「E-ライン・ビューティフル大賞」というニュースが流れてきた。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「宮沢りえ・上戸彩・釈由美子なんかが受賞してるらしいよ」



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「そうよ、まよ子知らなかったの。お母さんだって、横顔には自信あるんだから」

「でも、それ昔の話なんじゃないの」

「そんなことないわよ。こんどの日曜には化粧品ばっちりそろえるんだから」


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

先ほどの安子からの電話のことを思い出した。


「お母さん、こんどの日曜日」

「そうそう、お父さんとヒッチコックの映画見に行くんだけど、まよ子も行くわよね」



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「そんなこと聞いてないわよ、私にだって都合があるんだから」

「都合のある人が、学校ズル休みするわけ」


やばい、機嫌を損ねないうちに話題を変えなければと


「ううん、いっしょに行くんだけど映画は見ないの」

「どうして」

「写真部の鑑賞会が、同じ“杜の宮”であるのよ。だから、見つかったらこまるし」

「そりゃそうね、だったら終わってから買い物したり食事でもしよっか」

「そうそう、私もそれがいいわ」


うまく言い逃れた、しかしまったくの嘘ではなく、好都合であった。


日曜は、父の運転で“杜の宮”まで向かう。途中ガソリンの給油、とんでもなく値上がりをしていて驚いたが、もっと驚いたのは



◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「お父さん、あの顔のマーク変わったのね」

「どうしてそんなこと、わかるんだい」

「だって、“3”がなくなっているもの」


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-????

「あれ本当だ、気が付かなかったなあ」

「教えてくれたのお父さんじゃないの、しっかりしてよね」


父は照れた。そして、久しぶりに家族で笑った。・・・つづく