魚の光(4)
■グローフィッシュ
2004年1月5日、アメリカでこれまでなかった画期的な商品が発売された。
遺伝子組み換えされ、蛍光レッドに光るペット用の観賞魚である。植物や食品の分野でさんざん叩かれた「遺伝子組み換え」生物が、家庭用ペットとして売り出される。当然のことながら、この魚が物議をかもし出している。
GM(genetically modified=遺伝子組み換えされた)ペットフィッシュの商品名は、「グローフィッシュ(GloFish)・レッド・ゼブラ・ダニオ」。インドのガンジス川原産のゼブラフィッシュが“オリジナル”だ。ゼブラフィッシュは大きさ約5cm、体に黒と銀の横縞模様が入っている。個人のアクエリアム用としてポピュラーな小型熱帯魚だが、遺伝子工学や分子生物学の分野では実験魚として使われている。
ゼブラフィッシュが魚卵のときにクラゲやイソギンチャクの遺伝子を組み込むと、銀赤と黒の横縞という色で産まれてくる。これが、普通の明りの下で見れば赤、紫外線やブラックライトの下で見れば蛍光レッドに見える。グローフィッシュはもともと、シンガポール国立大学のツィユァン・ゴン教授が、河川の水質調査を目的として“開発”した魚だ。この魚を放流しておくと、重金属などの毒素が水の中にあればそれに反応して蛍光色に光る。一酸化炭素濃度に敏感なカナリアを鉱山の坑内で飼っていたという話があるが、グローフィッシュの本来の役割もそれに近い。この特殊な魚をつくる過程で同教授のチームが最初に開発したのが、蛍光レッドに光る魚だった。この魚のライセンスを受けたのが、ヨークタウン・テクノロジーズ社(テキサス州オースティン)である。
同社では、魚に「グローフィッシュ」という名前をつけ、2004年1月5日から1匹約5ドルでカリフォルニアを除く全米のペットショップで発売し始めた。「カリフォルニアを除く」のには、理由がある。同州は全米で唯一、遺伝子組み換えされた生き物の売買、所有、輸送を禁じている。許可を得るには、遺伝子組み換えされた生き物が自然界に逃げ出し交配することのないよう対策が整っていなければならない。この州法に基づき、同州ではグローフィッシュの販売が許可されていない。ところが去る11月、同州漁業・狩猟委員会では、「グローフィッシュの環境に与えるリスクは取るに足りない」とする考え方を示し、同州が販売許可を与えるよう勧告した。同委員会が最終判断を下すのは1月中になる見込み。州知事による正式な決定はさらに先の5月頃になるとみられている。予想されたことだが、グローフィッシュの発売の是否をめぐってはカリフォルニアだけでなく全米で論議が起こっている。様々な意見が飛び交う中で反対派の意見として最も強いのは、遺伝子組み換えされた魚をペットとして販売することが道義的ではない、そしてグローフィッシュが自然界に逃げ込んでしまった場合に、生態系をくずす恐れがあるというものだ。
ヨークタウン・テクノロジーズでは、「熱帯魚であるグローフィッシュは水温や水質に差のある自然環境では生き残れず、従って生態系をくずすようなことはない。」また、「グローフィッシュを他の魚が食べたとしても安全性には問題はない」という見解を示している。波乱の中で発売されることになったグローフィッシュだが、実際のところ前人気は非常に高い。昨年12月11日には消費者からの要望にこたえてクリスマスギフト用にいくつかの都市で先行発売が始まった。販売代理店の5-Dトロピカル&セグレスト・ファームズでは「創業以来45年になるが、こんなに消費者からの要望が高い商品は初めて」(ジョー・ディアズ同社代表)と驚いている。企業倫理が問われイメージダウンにつながるかと思いきや、発売前からすでに人気商品になってしまったグローフィッシュ。マスコミから伝わる否定的な論調と一般消費者との間にこれだけギャップがあるのもめずらしい。