魚の光(3)
■ヤコウチュウNoctiluca scintillans (渦鞭毛藻)
大きさ0.5~1mm、1個体だけを見るとほとんど無色透明ですが、大量に集まると赤く見えます。動物としてみるときは渦鞭毛虫類、植物にいれるときは渦鞭毛藻類とよばれる。最近は原生「生」物に分けられてもいるようです。
ヤコウチュウはゆっくりと一本の触手を動かしてプランクトンを粘着して餌としています。繁殖は、ほぼ1日で1回分裂して増えていく無性生殖と遊走子を作り出す有性生殖があります。生物発光で有名なヤコウチュウは、かなり大きな単細胞生物です。細胞の大部分は液胞で占められており、原形質はたいした量ではありません。大量発生すると、赤潮の原因にもなります。ヤコウチュウはゾウリムシ等の良く泳ぐ生物とは異なり、自分で泳いで移動する事ができません。波のまにまに漂うといった所でしょう。
えさを良く食べて、食胞をたくさん持っているヤコウチュウは培養条件下では容器の底に沈みます。腹を空かせてくると、次第に浮き上がってきます。自然条件でも、このような垂直移動を繰り返しているのかもしれません。ヤコウチュウは細胞が大きい事から、初期の電気生理学的実験に多く利用されてきました。その結果、たくさんの面白い性質を持っていることがあきらかとなっています。一番の特徴は、一つの細胞が、全く性質の異なる2種類の膜電位反応を発生する事でしょう。上のビデオに示しましたが、一つは、触手の運動を制御する自発性の膜電位反応で触手調節電位と呼ばれます。もう一つは、有名な発光現象を制御する、刺激に応じて生じる発光誘起電位と呼ばれる活動電位です。
■「夜光虫」著:馳星周
かつては神宮球場のヒーロー、プロ野球の世界ではノーヒットノーランを達成。加倉昭彦は栄光に彩られた野球人生を全うするはずだった。しかし肩の故障が彼を襲う。引退、事業の失敗、離婚、残った莫大な借金。加倉は再起を賭け台湾プロ野球に身を投じる。それでも将来の不安が消えることはない。苛立つ加倉は台湾マフィアの誘いに乗り、放水―八百長に手を染めた。―交錯する絆と裏切り。揺れ動く愛と憎。破滅への道しか進むことのできない閉塞状況のなかで解き放たれていく狂気…。人間の根源的欲望を描き切ったアジアン・ノワールの最高峰。