ぎょ貝類(24)
■カタツムリ(蝸牛) 代表的な陸に棲む巻貝である。カタツムリという言い方は日常語であって、生物学的な分類単位ではないため厳密な定義はない。地上を生活の場とする巻き貝類を陸貝(=陸に棲む貝類)という。このうち殻をもたないものをおおざっぱにナメクジという。これに対して殻を持つもの全てをカタツムリと呼んでも間違いではないが、ヤマタニシやキセルガイは普通にはカタツムリとは呼ばない。一般には蓋がなく触覚の先に目を持つ有肺類の陸貝を言い、なかでも球型~まんじゅう型の殻を持つものを指すことが多い。日本産ではオナジマイマイ科やニッポンマイマイ科の種類が代表的なものである。乾燥に弱く、移動能力が小さく、また、長距離の移動や山脈や水域を越えるのも難しいため、地域ごとに種分化が起こりやすい。種類は北より南の地方で多い傾向があるのは他の動物群と同様である。日本列島全体にわたるような広い分布域をもっているのは畑地の害虫であるウスカワマイマイなどごく僅かで、それ以外のカタツムリは地域ごとに異なる種が棲んでおり、関東と関西では多くの種類が入れ替わっている。また島などでは特に種分化が起こりやすく、南西諸島や小笠原諸島では島ごとに固有種が進化していることも多い。このような種分化は地球規模ではさらに顕著で、大陸間では科や属のレベルで大きく異なるのが普通である。
■エスカルゴ フランス料理として有名なエスカルゴはリンゴマイマイ科(Helicidae)のカタツムリの一種であり、主にヨーロッパとヨーロッパ系人種が多いアメリカで食用にされ、養殖も盛んに行われている。またフランス領のニューカレドニアなどでは、現地に産するトウガタマイマイ科のPlacostylus属のものが大量に消費されてきた。缶詰などのエスカルゴにはアフリカマイマイなどを使ったものも多く、中国や台湾などでは白珠といわれる軟体部の白いアフリカマイマイの品種が多く養殖されている。
アフリカマイマイ科とリンゴマイマイ科では足の溝の特徴が異なるため、缶詰の肉でも判別可能である。一般にはアフリカマイマイの肉の方がやや硬いとも言われるが、調理法や個人の嗜好にもよるため優劣を論ずることはできない。日本でもカタツムリを食べる文化は古くからあり、子供がおやつに焼いて食べたほか、喉や喘息の薬になると信じられ、殻を割って生食することも昭和時代まで一部で行われていた(カタツムリは寄生虫の宿主である事が多く、衛生的に養殖された物を除き生食する行為は危険である)。また殻ごと黒焼きにしたものも民間薬として使用され、2005年時点でも黒焼き専門店などで焼いたままのものや粉末にしたものなどが販売されている。
普通のカタツムリではないが、福島県郡山地方などでは、キセルガイ類を「カンニャボ」と呼び肝臓の薬としてエキスや粉末などを販売している。この原料となる貝を「ツメキセル貝」としている場合もあるが、標準和名としてのツメギセルは同地方には分布せず、実際に使用されているのはナミコギセルやヒカリギセルのようである。薬とはやや異なるが、八重山諸島に古くあった焼物であるパナリ焼きは、土にカタツムリを混ぜて作られたと言われる。良質の粘土がなかったため、土をつなぐ役割を果たしたらしい。