ぎょ貝類(22)
■藤原頼通が落慶供養した平等院鳳凰堂は、極楽浄土をこの世に現出するという意図のもとに創建された。堂内に残る様々な断片から、私達は往事の華麗な荘厳を知ることができる。阿弥陀如来の須弥壇から頭上に浮かぶ天蓋まで、螺鈿(らでん)によって宝相華(ほうそうげ)や蓮華・花鳥文がほどこされ、金箔に透彫りや銀・銅鏡によってまばゆいばかりの無数の光が放たれていたことであろう。また堂内全てが彩色で荘厳された例は平等院以外歴史的に存在しない。当時最も進んだ繧繝彩色(うんげんさいしき)によって宝相華唐草、蓮華紋、条帯文が描かれたものである。扉や壁には大和絵風九品来迎図、柱には飛天を描き、壁に掛けられている雲中供養菩薩も、当初は彩色と截金(きりがね)がほどこされていた。
■青貝細工
漆工芸や木工芸でよく見かける螺鈿は、平らにすり磨いた貝殻を文様に切って、漆器の場合は漆地にはって漆で塗り込め、木炭などで一面に研いで貝の文様を現す。貝は真珠光沢を持つヤコウガイ、アワビ、チョウガイなどを用いる。一般に薄貝を用いたものを青貝といい、厚貝を用いたものを螺鈿という。
■長崎の螺鈿細工の技術は、17世紀前半期に中国から伝えられたと記され、長崎の漆工として生島籐七や長兵衛(姓は不詳)の名が表れている。長崎の螺鈿細工は青貝細工と呼ばれる。アワビ貝片を薄く研ぎだして彩色を施したりしてあとに、錆仕上げの漆器の上に膠ではり付けたものである。この技法の始まりについては、貝片の裏側に彩色するというところがガラス絵とよく似ていることと、享保5年(1720)に書かれた「長崎夜話草」の塗物道具に「青貝」の文字があるところから、18世紀前半期にはすでに制作されていたといわれてきた。籐七、長兵衛のあとも青貝細工の名人は続いた。嘉永末年に名手として落合與惣治がいた。下って安政ごろには高橋金十郎、米田清治郎、村里喜十郎、三木七兵衛の名声が高かった。ついで坂本儀八、中野市兵衛、八尋源四郎…と物の本は記す。これらの名人たちの手で、洋机やキャビネット、飾り棚、テーブル、大盆、すずり箱など多彩な青貝細工が作られた。青貝細工は明治になって次第に衰え、大正の初めにはしばらく途絶えたが、大正5年(1916)二枝新三郎が「二枝式螺鈿」を始め、再興した。すなわち、貝片を紙のように薄く研ぎだして、型紙のように切り出したのである。これによって、従来できなかった曲面や紙など薄いものへの加飾ができるようになったという。
■次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)に数日~数週間浸けておきます。表面の有機質系の付着物や、巻貝内部に残っていて取り出しにくい肉が溶けてきます。タワシで磨くと美しい表面模様が現れたり、腐敗臭がなくなったりします。ただ、表面の石灰質の付着物(フジツボなど)はとれません。ぞうきんの上に置いて、ドライバーなどで除去します。次亜塩素酸ナトリウム溶液は実験用の試薬で、一般的なものではありません。そこで、洗濯用の塩素系漂白剤(液体)で代用します。これらの漂白剤は、かなり強いアルカリ性ですから、手に触れないような工夫をしてください。特に、目に入らないように注意しますが、もしもの場合は、多量の水で洗って医者に相談します。具体的な方法は、貝をプラスチック容器に入れて漂白剤を注ぎ、蓋をしておきます。安価なので、費用の心配は少なくて済みますが、少し工夫すれば量を減らすこともできます。貝を漂白剤と共にビニル袋に入れ、そのビニル袋ごと水を入れたプラスチック容器に入れるのです。水で、ビニル袋が押し付けられ、少ない漂白剤で処理できます。表面の汚れは、薄い塩酸にさっと浸けて溶かすという方法もあります。ただ、溶けて表面の模様が消えたり形が変わることもありますので、慎重に行ってください。※タカラガイ科の貝に、こういった処理は厳禁です。表面の美しいツヤが簡単に失われるからです。
アワビやサザエの表面の石灰質だけを酸性溶液で溶かすと、真珠層だけでできた貝飾りができます。塩酸を用いますが、薄ければ量がたくさん必要で時間もかかり、濃ければ、少量で短時間でできます。石灰質を溶かすのに必要な塩酸の絶対量は決まっているからです。しかし、濃い塩酸は危険です。また、あまり急速に溶けると、気が付いたときには溶け過ぎて穴が開いたりします。5倍程度には薄めますが、これでも濃くて危険です。ゴム手袋と保護メガネは必須です。家庭では、塩酸を用いることは危険です。そこで、トイレ用の洗浄剤(酸性タイプ)で代用できます。塩酸が10%近く入っているものがあり、濃度によって原液~2倍程度に薄めて用います。洗剤も入っていて泡がたくさん発生するので、容器は大きめのものを用意します。これらの酸性溶液に貝を浸けると二酸化炭素の気泡が発生し、5分ほどすると漂白剤だけでは取れにくかった表面のフジツボなどが、簡単に取り除けるようになります。さらに浸けておくと、表面の石灰質部分が徐々に溶けていきます。
しばらくするとアワが出にくくなります。取り出してみると、表面にぬるぬるした膜ができています。これが、貝と塩酸との接触を阻害しているようです。タワシで磨くと再びアワの発生が活発になります。ぬるぬるしたものは、貝殻に含まれるタンパク質成分のようですが、確認できていません。内側の真珠層にもぬるぬるした膜ができますが、これはそのままにして表面の膜だけ取り除きます。この作業を数回繰り返すと、きれいな真珠層が表面に現れた真珠貝ができます。この方法で、真珠層だけでできた美しい貝殻になりますが、一部に白い石灰質が残っていたり、溶け過ぎて穴が開くこともあります。石灰質の厚さが場所によって異なるからです。一般的には、口に近い部分が分厚く、先の尖った部分が薄いようです。つまり、全面真珠層で、穴が開かないように仕上げるには、それなりに丁寧な処理が必要です。最初は貝殻全体を酸に浸け置きし、上記と同じように処理します。真珠層が少し現れれば、酸性溶液から取り出します。そして、酸性溶液を筆につけ、貝殻の目的とする部分に塗って選択的に溶かします。筆は堅目のものを用い、貝殻表面を擦るようにします。こうすると、ぬるぬるした膜がとれて、その部分がより選択的に溶かされます。これは、かなり根気のいる作業です。貝殻の大きさにもよりますが、1時間~数十時間かかります。ヤコウガイは数日かかります。仕上げに、カーワックスなどを塗って磨きます。