ぎょ貝類(19)
■「ヒオウギガイ(桧扇貝、学名 Chlamys nobilis)」
マルスダレガイ目イタヤガイ科に分類される二枚貝の一種。食用になる貝で、アッパガイ、バタバタ、チョウタロウ、虹色貝などの別名、緋扇貝の表記がある。殻長は10cmほどで、形状は扇形。殻頂の前後に耳状突起があり、右殻の前方の耳状突起の直下には櫛の歯状に切れ込みがあり、ここから足糸を出し、右の殻を下にして石や岩に固着する。貝殻の色は赤、橙、黄、紫などで、1個体は単色だが個体によって変異に富んでいる。ただし、野生個体は褐色の個体が多いようである。人口採卵して養殖を行うと、遺伝的に固定した様々な色彩変異個体を得ることができ、鮮やかな黄色や紫の個体に高い商品価値がつけられてよく養殖されている。和名は、貝の形や色を古代にヒノキ材の薄板を束ねて作った扇である桧扇に例えたものである。
■桧扇(檜扇)はおよそ1200年前の平安時代に生まれた扇子の最初の姿です。当時は皇室や僧侶、神官、一部の貴族だけが持つことを許された大変高貴な扇子です。檜扇とは檜の薄皮をつヾって作った扇で、主として宮中においての儀式に際し、公家の男女が正装して所持したもの。位によって枚数がことなります。熱田神宮に一握、厳島神社に五握、摂社阿須賀神社に一握(現在は国有)を存するのみです。
■ヒオウギガイは和歌山県、三重県、高知県、大分県、鹿児島県等の温暖な海域の海底に棲息し、養殖の対象となっています。本種はホタテガイやイタヤガイと近縁です。貝殻を急激に開閉させて、海水をジェット水流のように吹きだして、短距離なら泳ぐことができます。貝殻の色には、紫、黄、オレンジ、赤紫、紫、紺等があります。この貝殻の色は単純なメンデル式の遺伝をすることがわかっています。貝殻の色は1つの遺伝子座上の対立遺伝子によって決まっていると考えられます。地方によって、アッパッパとかバタバタとか、ユーモラスな名前で呼ばれていますが、海から取りあげたときに、貝殻をぱくぱくさせることに由来した名前でしょう。
■貝殻を磨いて綺麗にするには金きりのこ、千枚通し、などの道具を使い表面のフジツボなどのおとし残しを削り取り、ハイターの希釈液に浸けておくと良い。塩酸を使う方法もあるが、しかも手っ取り早いが、非常に危険なのでおすすめできない。綺麗になった貝殻を植木鉢のふちに並べてさしておくとこれもなかなかいいと思う。貝殻が乾いてくると白っぽくなるので、椿油、オリーブ油などをすり込んでやるとまたつやが出てくる。
■たくさん並べて見るとまるで虹の七色かのような大変美しい貝。そんなところから産地の志摩では虹色貝とも呼ばれていて、この名称は商標になっています。産地によってはアッパッパとかアッパ貝など呼ばれていて、高知では長太郎貝と呼ばれています。ホタテと同じイタヤ貝の仲間で、やはり味もホタテに似ています。ホタテは寒い海で育つ一方、ヒオウギガイは暖かい海でないと育ちません。味も大変よく、刺身よし、焼いてよしでとにかく美味しい。ホタテの認知は誰もが知るところではありますが、その一方でヒオウギガイの知名度が低いのはヒオウギガイはホタテよりも若干割高になってしまうことと、ホタテに比べて弱い貝のためあまり流通向きではない貝なのです。そのため、産地へ行けばヒオウギガイを見かける機会はかなりあるものの、それ以外では見かける機会はほとんどありません。鳥羽・志摩方面へ行くとそこらじゅうに『あっぱ貝』と書かれた看板が立っています。