魚石(6)
■杉千絵「石の魚」
いつまでも明けない
夜の奥から
いのちを
ひとくち含んだ
魚があがってくる
形がそっくりなので
片側だけ魚にしてやったのさ
絵の具の
染み付いた指をさすりながら
少年は言う
黙りこくったわたしたち
たがいの胸の内をくみながら
水槽のキラキラ揺れる水に
半身の魚を
放してやった
泳げない魚は
反転してすぐに底
石の顔に戻ってしまった
眠りについた少年の
夢の深いところから
あがってくる
色あざやかな魚が
いま わたしの
夢の水槽を彩る
●著者略歴
前橋市在住、既刊詩集に「星曜日」がある。
お孫さんの富澤正樹さんは『国民文化祭ぐんま2001年現代詩大会」に入選した『石の気持ち』を残されて亡くなられたそうです。彼は小学1年で小児癌を発病し2001年11月26日中学一年まで闘病生活をなされたそうです。
(著者あとがきより)思い返すのは辛すぎる現実です。しかし一年が経とうとする今、彼の痕跡を一冊にしておきたいと思うようになりました。
■富澤正樹「石の気持ち 」
いたい!
またふみつぶされた
ランドセルを背負った子が
走っていく
いつもそうだ
いつもぼくはふみつぶされる
それだけじゃない
散歩中の犬に
おしっこをかけられたり
車にはね飛ばされ
とてもいたい思いをしている
でもぼくは動けない
ある日のこと
ぼくは富澤君に拾われた
かれはぼくを
家に連れて行ってくれた
そしてきれいに洗ってくれた
いまぼくは
仲間といっしょに
ざぶとんに座っている
ぼくは毎日が
とても楽しい
そして
富澤君に会えて
とてもうれしい
■2006年11月21日、北京市の「愛家国際コレクション交流市場」に出店したある商店に、新疆の天山南部の枯れた湖の底で見つけられた、珍しい「魚」が展示された。実はこれ、もとからこんな魚のような形をしていた天然の石。ベージュ色の地に黒い斑紋が浮き出ており、驚いたことに本物の魚そっくり。体長は72.8 cm、体高33cm、重さは20kg以上ある。さらに驚くべきはこの石の魚の値段で、なんと1億元(約13億円)もするという。