魚石(2)
■柳田国男・澁澤龍彦・水木しげるも魅せられた魚石
なんとも幻想的なイメージです。柳田国男や、澁澤龍彦、水木しげるも著書の中で魚石をとりあげていますが、たくさんの人々が魅了されたのもよく分かります。日に透かしてみると、きらめく水とひらひらと泳ぐ小魚が石の中に見えるなんて、さぞ美しいことでしょう。
■珍しい石
科学博物館に、その石はひっそり置かれていました。水を閉じこめた「めのう石」。「魚石」のように割れるギリギリまで磨き上げられているため、水が中に入っている様がはっきりと透けて見えるのです。もちろん魚はいなかったのですが、振ると、古代の音がする。学芸員のおじさんは、鉱物が結晶化する際にたまたま水が閉じこめられてしまうことがあるのだと説明してくれました。「この石を割ったらどうなるのですか」と聞くと、学芸員さんは「気圧が違うから蒸発してしまうかもしれない」と言いました。「石が割れてしまったら死んでしまう魚と同じなんだなあ」。
■バランスドアクアリウム
閉じた世界の中で生きる魚というのは不思議なイメージですが、水を入れ替えることもなく、餌をやることもなく水槽内で魚を飼育することは実は可能です。こういった水槽を「バランスドアクアリウム」といいます。自然界で活動するバクテリアの働きによって水質浄化され、水槽内が完全に自然界の食物連鎖と同様の環境であった場合には、人がほとんど餌やりや水槽の手入れをする必要がないのです。魚石も完全なバランスドアクアリウムだったのかもしれません。
■巨大なバランスドアクアリウム・地球
よく考えてみれば、この地球だってバランスドアクアリウムと言えます。真空の宇宙から、大気の膜で閉じられている巨大な球なのです。閉鎖されていても、大気の循環、食物連鎖が見事に設計されているため、地球の生命は40億年以上も栄えることができたのです。もし魚石を小さな地球と考えれば、魚石に素晴らしい価値があるのは当然です。魚石を手にするとは、地球まるごとを手にしたことと同じといえるのではないでしょうか。