魚の文学散歩(うぉーきんぐ)再び②
■エリック・C・ホガード『小さな魚』犬飼和雄訳・冨山房
第2次世界大戦末期の、荒れはてたイタリアを舞台に、孤児グイドら“小さな魚”たちが、たくましく生きていく姿を描く。この街に、グイドはいる。1943年、戦時中のナポリ。12歳の少年である。飢えと死が日々つきつけられる少年の目は、様々な人々の姿を映してゆく。1970年度第16回課題図書にも選ばれた戦争児童文学の傑作。
●Erik Christian Haugaard 23年デンマーク生まれ。児童文学作家、詩人、劇作家。渡米後、英語で創作活動を始める。主作品に『バイキングのハーコン』『どれい少女ヘルガ』(以上、冨山房)等。アイルランド在住。/いぬかい・かずお 神奈川生まれ。法政大学教授。著書に『記紀に見る甲斐酒折王朝』(レターボックス)、訳書に『モヒカン族の最後』(早川書房)等。
■「焼かれた魚」小熊秀雄文/アーサー・ビナード英訳/市川曜子画
白い皿の上にのった焼かれた秋刀魚は、たまらなく海が恋しくなりました。『ああ、海が恋しくなった。青い水が見たくなった。白い帆前船をながめたい。』秋刀魚は、猫に頬の肉をやることを条件に、海へ連れていってくれるよう頼みました……。自由への渇望と郷愁が漂う傑作童話。1993年の透土社版を元に、アーサー・ビナードによる英文対訳を加えた新装刊。
■アーサー・ビナード『空からやってきた魚』草思社
日本語の詩集で中原中也賞を受賞した米国人詩人による初エッセイ。物干し竿の売り声を真剣に考える「初めての唄」、鈴虫の鳴き声に耳を澄ませ、その絶妙な間をジャズにたとえる「鈴虫の間、ぼくの六畳間」、日本とアメリカで同じ女性とダブル結婚してしまう「欄外を生きる」、善意から団子虫の落下実験をする「団子虫の落下傘」、日本を訪れた理由を空からやってきた魚になぞらえる表題作「空からやってきた魚」など、ユーモラスなエッセイが52編収められている。アーサー・ビナード氏はミシガン州の生まれで、イタリアにもインドにも住んだことがある。日本に来て最初に住んだのが池袋で、今でも池袋の近くに住んでいる。この本を読んで強く印象に残るのは、筆者の池袋への愛である…というか、ご近所への愛か。日常の中で新鮮な好奇心と細やかな感受性を失わないことの素晴らしさを、ビナード氏は思い出させてくれる。それに、日本語の美しさ面白さ、本を読む奥深さ、街をぶらつく楽しさ、自転車で風を切る爽快さなど、こまごまとした幸福の感じ方を。
●Arthur Binard 1967年、米国ミシガン州生まれ。詩人。1990年、コルゲート大学英米文学部を卒業。卒論の際、日本語に出会い、魅惑されて来日。日本語での詩作、翻訳をはじめる。
詩集『釣り上げては』(思潮社)で第6回中原中也賞を受賞。エッセイ集に『日本語ぽこりぽこり』(小学館)、絵本に『カエルのおんがくたい』(福音館書店)、翻訳絵本に『どんなきぶん?』(福音館書店)、『カーロ、せかいをよむ』『カーロ、せかいをかぞえる』(ともにフレーベル館)、共著には『SANSEIDO WORD BOOK 2:音と絵で覚える子ども英語絵じてん』(三省堂)などがある。