版魚人(はんぎょじん)⑨
■小林敬生
木口木版の代表的な作家の一人。小林は、1944年に島根県松江市に生まれ、広島県で幼少年期を過ごし、10歳の時に、滋賀県大津市に移り住みます。高校卒業後京都と東京で美術を学ぶ中で、木口木版画の魅力にとりつかれ、その第一人者として高い評価を受けるようになります。木口木版は、堅い木を水平に輪切りにした面(木口)を、銅版用のビュランやノミで彫って版を作ります。従来本の挿絵の印刷技術として発達した木口木版画を、実用性から解放し、独創的な芸術表現の手段として復活させたのが、小林敬生ら幾人かの版画家で1970年代からのことです。
木口木版は本来、小画面の緻密な描写に向いた技法ですが、小林は1980年代後半より、版木を10枚以上も繋ぎ合わせ、大変スケールの大きい、ダイナミックな作品を制作しています。
小林の作品には、自由に飛翔したり、泳ぎ回る鳥や魚、昆虫などの生き物、所狭しと繁茂する植物、水底を連想させる幻想的な光景が登場しますが、その光景は、琵琶湖の辺で自然の懐に抱かれて過ごした体験がもとになって描かれているにちがいありません。
彫って摺る。それは私自身の手(即ち思考)の痕跡をそのままさらけ出す事でもあります。今、私はその痕跡を更なる痕跡で消し去る事によって姿を現すであろう世界を求めています。





