魚の文学散歩(うぉーきんぐ)[4]
■「白鯨」ハーマン・メルヴィル
もはや「白鯨」が、エイハブ船長と怪物モービィディックとの戦いを描いた小説である事を知らずにこの本を読む人はいないと思う。この物語を語るのは、イシュメールと名乗る風来坊の船乗りである。仕事欲しさに、「知らずに」エイハブ船長の船に乗り込んでしまったよそ者の彼は、エイハブという強烈なカリスマと出会い、彼の許で未開人クイークエグ、銛打ちの名手スターバック、いかれ気味のボーイらとチームを組むことになる。そして、彼等が乗るピークォド号。両舷に鯨の首を吊るし、マストには「白鯨」発見者に贈与される金貨が釘で打ち付けられている、呪われた捕鯨船。その磨きあげられた艦板に、エイハブ船長の鯨骨で出来た足がコツコツと響く。・・・凄惨なシーンが多く語られる物語ではあるが、クジラの死骸から抹香油を掻き出すシーンや、捕鯨ボートで小山のような鯨達の間を縫って航行するシーンなど、静的な見せ場も多く用意されている。本の冒頭、古典に見られる鯨の描写が、相当数の引用文を伴ってオマージュ的に述べられている。これはメルヴィル自身が抱く、鯨という存在の恐怖、破壊性、巨大さ、禍々しさ、力強さをおそらく表現しており、そのうえで彼が感じている、避けるべきなにか(たぶん運命的な)を暗示しているのかではないかと思う。その究極の存在である「白鯨」に立ち向かうエイハブ。しかし彼を狂気じみた存在として描写する事で偽善を避け、非常に苦みの強い味わいを、この物語に与えている。この味わいこそが、この物語の肝であり、普通の冒険小説!をひとつ飛び越えたものとして読み手を魅了し続けている。
■某大手コーヒーチェーン店は、この物語に出てくる銛打ちスターバックがコーヒー好きだったことにあやかり、その名を店名として拝領したのだそうです。
以前のプログで「青」にこだわって書いたことがあるのですが・・・今回の「魚」でも再登場です。
■「夢食い魚のブルー・グッドバイ」玉岡かおる
ぽちゃん。
心の中に、さかながいる。
でもそれは、友達から恋人へ、
たった30センチの距離すら泳いでゆけない哀しい魚だ・・・・。
大学卒業を控え、学生から社会人への交差点に佇む ヤマトと桜子。
往く夏のかわりに、ふたりがはじめた物語は、
せつない22歳の 匂いがした・・・。
1987年神戸文学賞受賞