魚文字(5)
■文房四宝とは、硯・墨・筆・紙のことをいいます。もともと、中国が発祥で、中国の文人が書斎(文房)で使用する文具(文房具)のうちで、もっとも重要なこれらの4種をいうわけです。文房四玩とか、文房四友あるいは文房四侯ともいわれます。中国で特に、文具に興味をもち出したのは漢代までさかのぼるようですが、唐代には良質の硯ができるようになって文具愛玩も強まり、宋代には文房四宝として硯、墨、筆、紙が特に尊重されるようになったということです。
■沙浦(さぷ)の硯坑で採取した原石です。白色の部分は魚脳凍(ぎょのうとう)、白い線は冰文(ひょうもん)、青く澄んだ天青色に青花を含んでいて、誠に湿潤美麗です。沙浦の硯坑は、西江の近くにあり深いところでは二十メートル以上もあります。露天堀と坑道式との違いがありますが、水厳(老坑)との状況(位置)が似ているようにも思われます。その為か、端渓硯について熟知されている人ですら、沙浦硯と水厳硯を見間違えるほど良く似ています。大物の原石が掘り出されることから、沙浦の端石硯は大型硯等多数が製作されると思われます。
■明の時代の硯です。「古澄泥善魚黄」は蘇州霊巌山のれっきとした自然石です。善魚はうなぎに似た中国の淡水魚で、腹側が鮮やかな黄色をしていることから黄色の澄泥硯を善色黄といいます。水にぬらすと黄金色に輝き、親しみ深いあたたかさを感じる名硯です。実用の面では、墨が細かく、より速く磨れ、特に淡墨や青墨に真価が発揮されます。中国唐の頃は硯の王座にすわっていました。明、清朝でわずかに作られた貴重な絶品です。
■忘筌(ぼうせん) 最初は師について書の技術を習得するが、学習が進むと自分なりの境地に入って技術から解放され、自由自在になること。元々は、『荘子』の中の言葉「得魚忘筌」で、魚を捕った後は、手段である「筌」(わな)は不要になることを言う。唐時代の孫過庭が書論『書譜』の中で、書の習得の段階に例えた。
「書」を楽しむということは、このような「文具」をも楽しむということだと思います。