ぎょ(158) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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えびかに話(3)

■「ゴンクール兄弟(Edmond de Goncourt,1822-1896,Jules deGoncourt,1830-1870)」 19世紀後半、フランスにおけるジャポニスム(日本美術愛好趣味)の普及に貢献したレアリスムの作家である。彼らは18 世紀のロココ美術と日本美術のコレクターとしても有名である。彼らは他の西欧のコレクターと同様に当時の日本では全く芸術的価値の認められていない刀の鍔や根付などの工芸品や浮世絵等に注目し、絶賛した。殊にゴンクール兄弟は自ら「浮世絵の発見者」と称し、発見した時を後に著書の中で訂正してまでこのことに執着した。1870 年の弟ジュールの死後、エドモンはその悲しみを癒すため、すべての収入を日本の美術品収集に費やした。1888 年5月、66 歳のエドモンは日本の芸術家たちの研究から構成される日本美術に関する著書を執筆しようと決心した。エドモンは1891 年『歌麿・青楼の家』、次に1896 年『北斎・18 世紀の日本美術』を出版したが、同年に逝去したため、この計画はすべて実現されなかった。浮世絵のテクニックのみを賞賛し、それを自らの創作に採用した印象派やナビ派等のジャポニザン(日本美術愛好者)の画家と比してエドモンは日本の美術品を賞賛しただけではなく、芸術家個人にも大いに関心を抱いた。エドモンはこれらの著書によって日本における二人の浮世絵の巨匠を19 世紀末のフランスの大衆に知らしめた先駆者となった。彼は自らの小説にも使用した審美的文体を駆使することで、浮世絵に関する知識の欠如を補うように努めた。1896 年6月の雑誌『コスモポリス』(Cosmopolis)によれば、北斎は当時のフランスの人々に最も注目された日本の浮世絵師であり、エドモンによる研究書は人々に多大なる影響を与えたことが認められる。エドモンは歌麿の版画に見られる吉原の遊女がポンパドゥール夫人やデュ・バリー伯爵夫人を代表とする18 世紀フランスの知性的で洗練された女性と「詩的感性」を共有すると主張した。また彼は歌麿を「日本のワトー」と呼んだ。それは歌麿の美人画のうりざね顔が18 世紀の「雅宴画」の画家ワトーの絵画の顔と似ていたためであり、また歌麿とワトーは共に「優美」、「洗練」という共通の美学を備えていたためであった。またエドモンは歌麿の描く女性を包む着物の色や柄に注目した。日本の女性が着物の色彩として選択した上品な中間色、淡色に関心を持ち、四季に応じて変化する自然の光景を描いた着物の柄を賛美した。例えばその色彩について、エドモン著の『歌麿』では以下のように独創的かつ審美的に表現した。

■「蟹緑」 まず白として好むのは茄子の白(緑がかった白)、魚の腹の白(銀白)だ。薔薇色は薔薇雪(青白い薔薇色)、桃の花雪(明るい薔薇色)。青色は青みの雪(明るい青)、空の黒(濃い青)、桃の花月(薔薇色の青)だ。黄色は蜜の色(明るい黄色)、赤はなつめの赤、煙る炎(赤茶)、銀灰(灰白赤)、緑は茶緑、蟹緑、小海老緑、玉葱芯の緑(黄味がかった緑)、すべての色に見事なニュアンスがあり、我々の国ではあいまいと思われるものである。


わたりがに1

一般に「カニ」は「赤」と考えがちですが、上記の文献に出会ってあらためて「蟹色」について考えさせられました。


わたりがに2

■「蟹の血液」 私たちの血液は赤いのですが、これは鉄イオンが関与した色によるものです。赤血球の「ヘモグロビン」で、鉄の「ヘム」と、たんぱく質である「グロビン」から、構成されています。動物の血液は全て赤かと言うと、中には緑色の血液を持った生物がいます。蟹がそうなのです。蟹は銅イオンで酸素を運びます。血液中の鉄イオンが酸化して、体内に酸素を運ぶのはご存知だと思います。この鉄の酸化する時間は、銅に比べ、短い時間で酸素と結合します。(鉄と銅の錆びる速さを比べてみると、参考になります)なぜ蟹は効率の悪い銅イオンを使っているのでしょう。実は、複雑な免疫機能の進化と、密接な関係があるのです。銅は抗菌作用の強い物質で、靴の中に十円玉を入れて臭いを消したりします。免疫の原型と言われる「補体」(ほたい)の機能も持っています。(補体とは、免疫反応、感染、防御に関与するタンパク質の総称)簡単に言うと、蟹は取り込んだ外敵を血液の銅イオンで破壊するシステムで、一方で酸素も運搬する二つの機能を持った古典的免疫システムなのです。進化により複雑な免疫システムが出来上がると、効率の良い鉄イオンに、置き換えられ、素早く酸素を取り入れ活発な活動をする動物へと変化します。


わたりがに3

■「渡蟹」 ワタリガニは甲らが菱形で、甲長は7~9cm、甲幅は15~20cmほどで、色は暗緑色または黄褐色、最後の脚が平べったいのが特徴です。生息水域は、水深5~20mの砂泥域であり、エビ類や小魚を餌としています。毎年秋に交尾し、翌年の春から夏にかけて産卵します。卵からふ化後1ヶ月間は浮遊生活をし、その後稚ガニとなって着底生活に移ります。ワタリガニは津軽海峡から九州、韓国、中国の内海に棲みます。特に東京湾、伊勢湾、瀬戸内、有明海で多くとれます。ワタリガニの旬は1~4月ですが、卵をもつ6~9月もおいしくなります。春や夏は肉の多い雄を、冬場はみそも卵もたっぷりつまった雌を食べるのが通です。卵を抱いている雌の方が雄より高価で、雄はぶつ切りにして、切り蟹として売られている事が多いようです。ワタリガニは独特な旨味が美味なことで食通に人気があります。脚には少ししか身がないのですが、脚のつけねには身が多く、みそや卵巣の旨味が最高に美味です。口の周辺が黒ずんでいるのは古くなっているのでそうでない新鮮な物を選ぶと良いです。


わたりがに4

■「ガザミ」 ワタリガニの標準和名はガザミ。ボートの櫂のような第5脚を巧みに操って泳ぎ、遠くへ移動することから命名されました。また、このカニは月夜に群れをなして泳ぐことから「月夜ガニ」とも呼ばれます。「ガザミ」とはカニのハサミの略語で、ハサミを意味するカサメの転訛ともいわれています。「本朝食鑑」には「一つのハサミは大きく、一つのハサミは小さいので、いつも大きいほうのハサミで闘い、小さい方で物を食べる」とあります。ワタリガニを食用としたのは弥生時代にさかのぼるとのことから、それだけ手に入りやすいところに生息していたことが想像されます。仲間には近縁種の「台湾ガザミ」(甲の表面に白色の雲状模様がある)と「蛇の目ガザミ」(白く縁どられた3個の紫色の斑紋がある)及びワタリガニ科最大で、甲長14cm 甲幅20cmにもなるのが「鋸ガザミ」で、肉は多いが大味。また、甲が硬いので脱皮したてのカニを丸ごと食べることのできるアメリカで人気の「青ガニ」をソフトシェルと呼んでいます。以上が食用種として重要な蟹で、その他には「平爪ガニ」通称マルガニ(甲羅の中央にHの字に見える溝があるので、エッチガニとも呼ばれる)、「石ガニ」(味は良いが、小型で肉の量が少ない)、紋付石ガニ、赤石ガニ、縞石ガニ、小紋ガニ、目長ガザミなどがいます。


わたりがに5