紙魚(1)
いろいろな制作の合い間に、新聞紙をシュレッダーで細切れにし、水につけて「紙粘土」づくりをしておいた。ようやく、いい感じになってきたので「洗濯のり」を混ぜ、「紙の魚」の制作にとりかかった。
第2回「すくらんぶる」展で、紙粘土やコラージュ作品に取り組んだことがあり、その時に樹木保護用の麻テープに紙粘土を塗りつけた作品を制作した。おもしろい効果が得られたので、また機会があれば違った作品を制作しようと考えていたのである。この画像は「紙粘土」を塗りつけたばかりのところなので、濡れた状態である。乾燥には数日かかる。それからどのように処理するかを考えようと思っている。
こちらは、新聞紙に「紙粘土」を魚型に塗りつけたものである。「洗濯のり」だけでは弱いので「木工用ボンド」も混ぜてある。新聞紙に直接塗りつけた作品は、乾燥過程で偶然のゆがみ(反り)がでるのでおもしろい。これも乾燥してからどう処理するかを考えたい。
これらの作品を制作しながらネーミングを考えていると・・・「紙魚」と書いて「しみ」と読むことを思い出した。最近、その「しみ」を見ることはあまりないが・・・中学時代の思い出が甦ってきた。
中学3年の夏休み、美術の宿題が「名画収集」であった。身近なカレンダーや本などを探したがあまり集まらない。そこで、毎日のように近所の古本屋に通うことになった。埃っぽくかび臭い店内に長時間滞在し、ありとあらゆる美術書や画集のページをめくった。本棚の奥、積み上げられた本をひっくり返して名画を探す。ページをめくった瞬間に「しみ」が走る。指で押しつぶすと、まさしく「しみ」になる。本が汚れるので、「しみ」が走り去るのを待つ。時には、息で吹き飛ばす。
今まで見たこともない名画や迷画に多く出会い、まさしく私は本の「むし」になってしまった。高価な画集は買うことができないので、安い月刊美術雑誌を片っ端から購入した。家に持ち帰っては切り取り、画用紙に貼って解説やら感想を書き加える。夏休みが終わる頃には、相当量の名画が積み上がった。画用紙にキリで穴をあけ、表紙をつけてオリジナル画集を完成させた。学校に持っていくと、他のどの生徒のものよりも立派で、私は学校中で有名になってしまった。それまで何のとりえもなかった私が・・・。この「名画収集」のおかげで、ほとんどの画家・作家の名前と作品を覚えてしまった。美術をめざす私にとって、それは大きな財産となり、今日まで生き続けている。
【紙魚(しみ)】衣魚(しみ)・雲母虫(きららむし)
体形は蝦を小さくしたような1cm足らずの虫で、衣類や和紙の糊を好んで食べる害虫。銀白色の鱗毛に覆われすばしこい。下等な虫で翅は無い、暗いところを好む。
昆虫というと、そのほとんどは翅があるというのが共通点ですが、翅のない昆虫もいくらかいます。ノミ、シラミ、ガロアムシなどのように生涯翅を持たないものもいますが、これらは翅のある祖先が進化の過程で翅を退化させたものです。ところが、シミ、イシノミ、トビムシなどは、祖先も含めて翅を持っていません。彼らは、翅を持つまでの段階に進化していない原始的なグループです。なかでもシミはムカデやヤスデのような腹部の足の名残があり、これらの生物から昆虫が進化してきた当時の特徴を良く残しています。イシノミやトビムシ同様、変態せずに成虫になっても脱皮を繰り返します。こうした原始的な昆虫が、4億年近くも余り姿を変えないで生き残っているのは驚異の一言です。「しみ」ってすごい奴なんですね。