ぎょ(58) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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折蟹(1)

「かに道楽」を掲載して、大切なことを思い出した。「蟹」の「折紙」すなわち「折蟹」である。

私が高校生の時、美大受験のためにデッサンを習うため「研究所」に通い始めた。

高校の美術教師の紹介であった。女子高校の先生が教えてくださっていたこともあって、女子高生が多く通っていたので、それはそれは楽しい日々を過ごしていた。デッサンの上達は・・・???であった。そんなある日、先生が「今日はデッサンをしなくていい。そのかわりに折紙をする。」と言い出された。ポカンとしている私たちに「折紙もデッサンや。」と豪語された。先生の指示に従って折り始めたのが、今まで経験したこともないような「蟹」の「折紙」であった。しかし、所詮折紙である。言われたとおりに折っていけば、なんとか蟹らしくなる。そして折りあげた蟹をならべて見比べてみた。なんと、同じように折ったはずなのに、先生の蟹と私たちの蟹とではまったくと言っていいほど違っていたのである。まさしく「デッサン」力の違いであった。先生はそんな私たちの驚く顔を見ながらニンマリしておられた。今でも、悔しい。


折りがに1


そんな先生の指導のおかげで無事美大に合格する。先生も教師をやめられて画家として独立され、研究所もたたまれた。コンクールに入賞されるなど、輝かしいデビューであった。しかし、その後の消息がつかめないまま、「折蟹」のこともすっかり忘れてしまっていた。何の間違いか私も美術教師になり、最初の教え子を卒業させることになった時、ふと考えたのである。この子たちは、高校で美術を選択しなかったら、これが最後の美術の授業になるんだと。卒業を前にして、何を教えるべきか?何を伝えるべきかと。その学年は結構元気で、先生方にいろいろなニックネームもつけていた。その中に、口角アワをとばす年配女性の音楽教師がいた。生徒たちがつけたニックネームは「カニばば」である。さすがに、ちょっと口にだすのがはばかられる表現ではあるが、その苦労をかけた先生に何か恩返しをさせたかったし、また、いずれ親となるであろうこの子たちに「伝えたい」ことがあった。それがこの「折蟹」であった。卒業を前にした最後の美術の授業、制限時間は50分である。


A3用紙


最初に教えた子たちにはB4サイズの紙を配った。はじめての複雑な折紙のため、途中で破けてしまうなど苦労させてしまった。慣れれば小さな紙でも折れるのだが、A3サイズが一番適当だと思う。はじめから正方形に裁断することは避けたい。自分で正方形にすることも大切である。だいたいが折紙用の正方形の紙が販売されているのは日本ぐらいだと聞く。「切る」「折る」「結ぶ」は図工美術の基本的な技術として、事あるごとに経験させておきたい。


正方形1


きちんと両手を使い、紙を三角形に折り合わせる。「折る」という文字は「祈る」という文字に似ている。「合わせる」「重ねる」という行為は「合掌」でもある。


正方形2


紙を切るには「はさみ」か「カッター」を用いる。しかし、手で千切ることも経験させたい。「紙」は「神」であり、「千切る」は「契る」なのである。紙の特質、材質を手で千切ることによって知ることが大切である。時には、紙で手を切ることもあるということを。


折り目


「折紙」の極意は「折り目」にあると言って過言ではない。「折り目正しく」という言葉があるように、事前に「折り目」をつけておくことが美しく折るコツなのである。事前準備である。「備えあれば憂いなし」である。


4


正方形の紙にあらかじめ碁盤の折り目を入れておく。タテ4のヨコ4で16マスの碁盤(方眼)目である。そして赤マジックで印を入れた部分に切り込みを入れる。「切るという行為は折紙の邪道だ。」という方もおられるかもしれない。しかし、そうせずにはおれないこともある。この切り込みは、4枚の正方形を同時に折るというイメージである。折り方としては、かの有名な「鶴」である。すなわち、つながった4羽の鶴を折るプロセスをふむことになる。しかし、紙がつながっているので、頭が混乱して難しく感じるわけである。慣れれば、それほど難しい折紙ではない。それでは、折りはじめよう。