「空飛ぶくじら」ではないけれど、5月5日の「鯉のぼり」。最近では、川辺に多くの鯉のぼりがズラッーと泳いでいる風景をよく目にする。なかなかのものである。私が小さい頃、家には鯉のぼりをあげるようなスペースもなく、五月人形すら飾ってもらえなかった。5月5日には、苦い思い出がある。
幼稚園や小学校低学年ではお誕生会で祝ってくれたりする。私はそれがイヤだった。なぜなら、私の誕生日は3月3日なのだ。それを知った友達は「女の子みたい」と薄ら笑いを浮かべるのである。そんなこともあって、母に強く五月人形を飾ってくれるようにせがんだものである。そんなに貧しい家ではなかったが、その願いはかなえてもらえなかった。しかし、朝起きて見ると、床の間に勇壮な楠正成?が馬にまたがっているではないか。その周囲にはアヤメ(菖蒲?)の花が咲き乱れていた。
母が夜遅くまで画用紙を切り、色を塗って作ってくれたのである。それ以来、私は五月人形をせがまなくなったし、3月3日生まれを恥ずかしがることもしなくなった。
そんな母の影響を受けて育った私が、美術をめざすようになったのはむしろ必然であった。そして、深く感謝している。