これまで「ちょうちょ」と書いてきましたが「てふてふ」についてふれておきたいと思います。
明治以前、日本各地で蝶の呼び名が異なっていたことは、江戸の博物誌に記されています。『倭訓栞』にも、「てふ」というのは“音”、すなわち古代中国の呼び方とした上で、関東・南奥州では「てふま」、津軽では「かにべ」あるいは「てこな」、越後では「ふまつべったら」、信濃では「あまびら」、西国では「ひるろう」、伊勢では「ひいろ」としています。このうち、「ひら」あるいは「へら」から変化した蝶(蛾もふくむ)の名は西日本から勢力を拡大した文化圏の蝶の古名の名残りのようです。『重修本草綱目』では、古歌に「からてふ」というとした上で、さらに詳しく各地の蝶の呼び名を挙げています。京都では「ちょてふ」、江戸では「てふてふ」といい、野州(群馬・栃木)では「かわびらこ」あるいは「てふてふばこ」というとし、「てふ」を、その飛ぶ様子を擬音であらわして「てふてふ」とする動向が江戸と京都に別途におこって一般化したことが知られています。その方言の分布を見ると、平安末期の『新撰字鏡』や『今昔物語』に記され、蝶の古名とされる「かわひらこ」が、沖縄の「てびらこ」のように、蝶を「ひら」をふくむ名で呼んでいた地域が8世紀ころの中国語の「てふ」を導入したけれども、北関東などには残存した可能性が示唆されています。それが鎌倉武士の言葉とともに全国的な呼び名として再浮上し、蝶の古名として認知されるようになったと考えられています。
さて、「ちょうちょ」という表現になじんできた私は昔は「てふてふ」と書いていたということを知ってとても違和感を覚えました。しかし今、擬音としての蝶を考えると「ちょうちょ」と蝶が飛んでいるとする方が違和感を感じます。「てふてふ」や「ひらひら」こそが蝶にふさわしいと思います。記号としての言葉ではなく、言霊としての言葉こそが大切にされる必要があるのではと思います。
画像は本文に関係ありません。アダムという
アイビーの変異種でマダムバタフライという
品種です。