中国の陰陽五行説図では色彩は青、赤、黄、白、黒である。これに対して古代日本人は色彩を明暗を表す言葉を「あか」と「くろ」、色彩の濃淡を表す言葉を「あを」「しろ」というように使っていたらしい。古語辞典では明、暗、漠、顕の漢字にあてている。これは中国人とも現代日本人とも相当に違う色彩感覚です。古代日本人とはいったいどういう人たちか。古文書には蝦夷(エゾと読みます)という言葉が頻出し、彼等は関東→東北と逐われていったことが記されています。蝦夷=大和朝廷に帰属しない古代日本人説は有力な見解です。私は若い頃もう三十年も前のことですが、東北の山々を歩いたことがあります。その時ちょっと我々とは感じの違う若い女性に会いました。色が抜けるように白く上背があり髪と眉毛は漆黒、鼻筋は通り目の色は黒でした。ちょっと見ると混血の面影があるのですが彼等とも違うのです。話してみると日本語を話しました。私は彼女の中に蝦夷の血が流れていること信じています。琉球人も琉球王朝を作ったくらいで我々とは違います。会ってみると直ぐわかります。「違う」ことを悪いと言っているのではありません。私は違うことはすばらしいことと思います。日本人、日本文化が豊かになることに繋がります。東北人と琉球人の体を科学的に調べると抗原抗体反応に共通点があり近畿人とは違います。おそらく日本人がまだ文字を持たなかった時代つまり古事記や日本書紀の神話時代、日本人の一部は九州→奄美→琉球と南下したと思います。琉球奄美列弧を北上したのではありません。東北人と琉球人の文化的共通点も指摘されている。だから、東北、琉球島嶼の方言に日本の古代語が残存している可能性はあるのです。方言の研究は重要です。蝦夷とアイヌ人の共通点も指摘されています。アイヌ人は見掛けは欧米人種ですが、科学的な遺伝情報、血液抗原抗体反応から調べると古モンゴロイドである。欧米の研究者はアイヌの風俗に日本の古俗を見ると言います。古モンゴロイド=縄文人説は、もし本当ならば非常に面白いです。今後の研究の発展が待ち遠しい。中国人と日本人は新モンゴロイドに属します。しかし蝦夷の一部はアイヌと混血していたかもしれない。遠野物語を読むとそういう雰囲気が察せられます。遠野物語には工学とは無縁の民俗の世界が描かれています。だからこそ我々は読む必要があるのではないでしょうか。日本語は世界言語の中で孤立した言語です。しかし近い言語はあります。琉球語、アイヌ語、朝鮮語です。琉球語はほとんど日本語に音韻対応がつくので方言と言ってもいいくらいです。アイヌ語はかなり違い音節が母音あるいは子音+母音だけではなく子音の連続が存在します。外国語と同じです。アイヌ語には文字が無い事、所有格が未発達な点で原始の面影を残した言語です。朝鮮語は母音子音数とも日本語より遥かに多く日本語とはそうとうに隔たっています。韓国に行って日本式に発音しても通じません。子音を強く発音しないとだめです。どの見解を採用してもアイヌ語と文化に日本の古い習俗が残存する確率が高いように思います。アイヌ語では色彩用語は赤(フレ)、黒(クンネ)、白(レタラ)、青(シウニン)である。古代の日本と同じです。興味深いことにアイヌ語の「アヲ」は間(あいだ)という意味です。さらに日本語に近い言語、琉球語には人は死後「青の世界に行く」という言い方がある。青は色彩を表すのではなく葬所、奥武(オー)を意味するか、「近い」とか「隣の」という意味です。古代琉球では「オー」をアフ、アウ、アホと発音していたらしい。ハワイ・南太平洋の神話にもこの世から黄泉の国への中間に「あを」の国があることが示されています。日本語の奄美大島方言では「青のちきやさ」という言い方がある。「距離が近い」という意味です。古代日本語の「あを」は「灰色がかった白」をさすと広辞苑にある。しかし色だけではなく、おそらく古代「あを」は近い時間、空間をも表す総称的な単語だったのではないか、と思います。『日本各地の方言に黄色を「あを」と言う記録が残る。以前私はこの黄色を示す「あを」という言葉を知っている人を探したことがあった。青森をはじめ新潟、岐阜、福岡などの教育委員会で方言の専門家に聞いてみたが誰も知っている人はいなかった。しかしただ独り沖縄の国頭村に住む九十才の老婆が知っていた。』これは片山氏の記録です。氏はその後「あを」が「中間の」という意味の単語であったことを述べている。う~む。すごい旅ですね。私はこういう旅をしてみたい。その後、東北、八丈島、沖縄の方言に黄色を「あを」と言う記載が存在することは確認しました。以上は古代日本語が漢字表記を取り入れる前の「あを」という言葉の(音と言うべきでしょうね)かすかな記憶です。話は飛躍しますが、先日文化人類学の本で「ナバホ・インディアンは青い卵と草の緑に同じ語を用いる」という記述を見つけました。もちろん彼等が二つの色を識別できない身体的欠陥を持っているわけではありません。その語がどういう音をなのか、他の単語との関連について知りたいですが、まだ調査していません。インディアンは古モンゴロイドの一族だから青と緑色の問題はその一族の自然を切り取る言語体系に組み込まれている問題なのかも知れません。古モンゴロイド族は有史前アジア、南北アメリカ大陸の広大な大地に住んでいたと思われますが「文明人」に虐殺されて現在はほとんど生存していません。彼等の言語と文化がいかなるものであったか、調べるのは困難でしょう。⇒つづく